医療関係者のみなさまへ

 鍼灸は慢性の痛みにしばしば著効するため、欧米を中心に利用者が増加傾向にあります。それに伴いこの20年間で鍼灸の作用メカニズムや有効性を示す研究データも数多く報告されるようになりました。

我が国でも現在20以上の大学病院と900以上の私立公立病院で鍼灸が取り入れられています。

2012年にThe Journal of the American Medical Associationに掲載されたVickers らによるメタアナリシスでは17,922名の慢性疼痛患者らを含む29のRCTが解析され、鍼灸の利用が慢性疼痛に有効であることが示されました。

鍼には大きく分けて体表から浅く刺し特有のひびき感覚を生じない鍼灸(Sham Acupuncture)と、深部結合組織にアプローチし重たく鈍い特有のひびき感覚を生じる鍼灸(Verum Acupuncture)の2通りがあります。当院では筋膜鍼と名付けてVerum Acupunctureを提供しています。

鍼の特異的な作用としては中枢神経系でのメカニズムと、末梢結合組織でのメカニズムが近年よく研究されています。

中枢神経系での作用では低周波電気鍼で中脳水道周囲灰白質からエンドルフィンやエンケファリン、エンドモルフィンなどの鎮痛に関わる神経伝達物質が分泌されるメカニズムがもっとも有名です。2009年にはHarris らによりモルヒネ様オピオイド受容体は鍼治療の回数を重ねるほどオピオイド様神経伝達物質との結合能を増強させることが示されました。

近年では機能的MRIや拡散テンソル画像(DTI)技術により鍼による脳血流の変化や白質の微小構造の変化などが研究されています。

筋膜に及ぼす影響についてはバーモント大学のヘレンランジェバン医師らが結合組織での変化について研究を続けています。

まず鍼を結合組織に刺入し、細胞外マトリックス(ECM)のコラーゲンシートに鍼を巻きつけると鍼を中心にトルクが生じ、この力に反応して筋膜内の線維芽細胞に変化が起こります。

Mechanical signaling through connective tissue: a mechanism for the therapeutic effect of acupuncture. HELENE M. LANGEVIN, et al. The FASEB Journal. 2001.から引用

鍼をする前の線維芽細胞は写真Aのような形状をしていますが、トルクに反応してBのようなフラットな形状に変化したり、葉状仮足や糸状仮足が伸びて細胞の移動が活発になったりします。

細胞断面が拡大し、組織長が延びることにより、コラーゲンシート内部に隙間ができ、線維芽細胞だけでなく免疫細胞などの動きも促進され、神経や血管の圧迫もリリースされると考えられています。

Cytoskeletal remodeling of connective tissue fibroblasts in response to static stretch is dependent on matrix material properties. Rosalyn D Abbott, et al. Journal of cellular physiology. 2012.から引用

またこのトルクへの反応として本来は細胞のエネルギー源として利用されるアデノシン3リン酸(ATP)が細胞から自己分泌され、細胞外で分解されて痛覚受容体などに結合することが鍼鎮痛に重要な役割を果たしていることも報告されています。

鍼灸はランダム化比較試験の際に比較対象(コントロール)をどのように設定すべきかという部分に大変な困難さがあり、いわゆる「質のよいRCT」を行うことが困難なためシステマチックレビューもはっきりとした結論が出るものが少ないのが現状です。その中で腰痛に対しては「エビデンスの質が低いため鍼灸の有効性を示すにはさらなる質の高い研究が必要だが、慢性腰痛の疼痛軽減と機能的改善について鍼灸は治療直後と短期間のみ有効であり、他の治療への有用な付加療法である」ことが示されています。また線維筋痛症に対しては「電気鍼は痛み、こわばりの緩和や睡眠や疲労の改善など全体的な利益が得られる可能性があり、お薬や運動と組み合わせた方が高い効果が期待できる」とまとめられています。

当院は鍼灸研究に基づく科学的な鍼灸に取り組んでいます。慢性の痛みの治療オプションとしてお試しいただけたら幸いです。

参考文献:

Acupuncture for Chronic Pain. Andrew J. Vickers, et al. Arch Intern Med. 2012;172(19):1454-1453.

Traditional Chinese Acupuncture and Placebo (Sham) Acupuncture Are Differentiated by Their Effects on μ-Opioid Receptors (MORs). Richard E. Harris, et al. 2009. Neuroimage. 2009.

Acupuncture Modulates Resting State Connectivity in Default and Sensorimotor Brain Networks. Rupali P. Dhond, et al. Pain. 2008.

Rewiring the primary somatosensory cortex in carpal tunnel syndrome with acupuncture. Yumi Maeda,et al. Brain. 2017.

Ultrasonography in myofascial neck pain: randomized clinical trial for diagnosis and follow-up. Antonio Stecco, et al. Surg Radiol Anat 2013.

Mechanical signaling through connective tissue: a mechanism for the therapeutic effect of acupuncture. HELENE M. LANGEVIN, et al. The FASEB Journal. 2001.

Cytoskeletal remodeling of connective tissue fibroblasts in response to static stretch is dependent on matrix material properties. Rosalyn D Abbott, et al. Journal of cellular physiology. 2012.

Adenosine A1 receptors mediate local anti-nociceptive effects of acupuncture. Nanna Goldman, et al. Nature Neuroscience. 2010.

Acupuncture and dry-needling for low back pain. Furlan AD, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2013.

Acupuncture for treating fibromyalgia. John C Deare, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2013.

医師用パンフレット請求先

⬇︎

朝霧高原治療院

富士市石坂380-1 

ゴルヴァティーク1F

090-8502-0256 

tanaka.ahac@gmail.com