お灸が効くメカニズム

朝霧高原治療院の田中です。すっかり春ですね。治療院の庭がとてもきれいです。
入口にはバラのアーチがあるのですが、とてもいい香りがします。
アーチの下にはクレマチスが咲き始めました。

さて。昨日の晩にたまたまアフリカで結核治療に対するお灸を広めている団体のミーティングを覗かせてもらうことができました。


そこでも言及されていたけどお灸の研究論文て確かに数が少ないんですよね。日本では昭和の時代に九州大学の原志免太郎(はら しめたろう)先生が熱心にお灸の研究をなさっていて、原先生の書いた本を読むと結核感染症がお灸で改善する、といった内容が実験データを元に示されてます。

昨日のミーティングを聞きながら「お灸がどういったメカニズムで効くのか示された文献は現時点でどういったのがあるのかな?」と疑問に思いました。それで検索してみるとあまり見当たらない。


お灸をすると熱に反応する皮膚の末梢受容体がまず反応するはずです。TRPV1とか。TRPV1は43℃以上の熱によって活性化するそうだけど、活性型運搬体ATPが豊富な状況ではもっと低い温度でも活性化してくるそうです。いずれにしてもここからの熱刺激シグナルが脳に伝わって、なんらかの変化が起こることで原先生が示されたような結核菌感染症を改善させるような効果が表れるんだろうけど。


検索でいくつかヒットしたうち上海中医大学と鍼灸経絡研究センターの先生たち2人が2013年にまとめたものをパーっと読んでみました。
これです↓

まずお灸の適応症として逆子、下痢、大腸炎が最も多く使われていて、後は尿失禁、月経困難症、変形性膝関節症、顎関節障害、軟部組織損傷、踵痛、喘息、尿閉、帯状疱疹。衰弱、疲労、加齢に関連する問題にも利用される、と書いてある。


結核、とは書いてないな。


鍼の1番古いとされてる文献、黄帝内経霊枢に「鍼が効かなければ灸が効く」と書いてあるらしい。ふうん。実際は効いた人も効かなかった人もいたはず。

それに続いて中医理論についてずらずらと書いてあって、その後にお灸のメカニズムについて書かれている。これです、読みたかったのは。


まずお灸が科学的に研究され始めたのは前世紀初頭で、日本の研究者たちがお灸の材料であるもぐさの物理的特性や、血圧や腸の蠕動運動に対するお灸の効果を観察したのが始まりだと書いてある。そして今では鎮痛、免疫力向上、老化防止の分野で研究数が増え続けていて、同時に、お灸のメカニズムに関する研究も徐々に、主にもぐさとその燃焼生成物の熱効果、放射線効果、薬理作用に関連する研究が増えてきているそう。


そしてやはりお灸をすると痛みを感じるレベルが変化して鎮痛効果を生じさせるらしい。放射熱を出す装置で同じ温度の熱を加えてもそれは起こらないらしいから興味深い。そして熱ショックタンパクHSPが発現することもお灸の効果に大いに影響を及ぼす、と書いてある。


お灸の効果には近赤外線による血行促進や細胞や酵素の活性化などが関与していると考えられているらしいです。


「近赤外線は、照射された皮膚の下にある結合組織、血管、リンパ管、神経などに吸収された後、血液の循環に乗って体内の他の部位に分布し、到達した臓器の代謝や熱発生を促進することで、組織内で生成される活性物質を誘導することができる。また、近赤外線は細胞の新陳代謝を活発にする。光電効果や光化学過程で発生したエネルギーが神経・血液系を通過することで、エネルギーを欠いた病的な細胞に活性化を与え、さらに身体の免疫機能や神経機能を調整することができる」と書いてある。


これだけだとなんだか漠然としていてよく理解できません。


でもその後に薬理作用について書かれていて、その中には、

「もぐさの煙は、空気の殺菌や、抗ウイルス・抗真菌剤として利用できる。また、傷口の感染、膣のかゆみ、子宮脱、肛門瘻、尋常性疣贅などに応用できると報告されており、もぐさの煙が呼吸によって体に影響を与えることを示した研究もある。

空気の殺菌や抗ウイルス、抗真菌剤として利用できる、という記述はとても興味深い。

うちの治療院でも難治症の爪水虫(爪白癬)の患者さんに爪の上にお灸をしてみるように勧めたところとてもいい結果が得られています。糖尿病の患者さんなんかの場合には特にお灸が足病変の原因にならないように注意しなくてはいけないけれど、爪白癬には積極的にお灸を使っていきたいと思っています。


最後のまとめのところに、

「お灸の効果のメカニズムについては、温熱刺激効果、非特異的自己タンパク療法、非特異的ストレス反応、アロマテラピーなど、様々な視点がある」と書かれていますが、前述の原志免太郎先生の著作ではお灸は非特異的自己タンパク療法だと言及されてます。

その後、

「お灸の効果に関するメカニズムにはまだまだ分からないことが多いが、物理的・化学的要因がツボの受容体に作用すると、その信号は末梢経路を通って中枢神経系に入り、統合された後に外に出て、神経・内分泌・免疫ネットワークや循環系を調整し、身体の内部環境を整えて、病気の予防や治療の効果が生じる」とした上で、

今後のお灸のメカニズム研究について4つの提案をしている。

ひとつはメカニズム研究をする上で伝統的な鍼灸理論も考慮に入れること、ふたつめは臨床的に難治性疾患に対して化膿灸が効くことが多いことから「化膿」に着目すること、3つめはメカニズム研究に最新の研究知識や技術を応用すること、4つめは臨床応用を見据えた研究を行うこと。


なるほど。

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