神経系疾患に対する鍼灸

朝霧高原治療院の田中です。先週はコロナの影響で空き時間が増えたので神経系疾患に対する鍼灸についてまとめた台湾の論文を読みました。

これです↓

時間があったので久しぶりに日本語に訳したので興味のある方は読んでみて頂けたら訳した甲斐があります。

鍼灸は何にでも効くわけではないです。ただ正しい知識の元にやらなければ効くものも効きません。私が習った後世派も、江戸時代に始まった古方派も、戦後に中国共産党が勝手に作った中医学も、どれが効くのかははっきりしてるわけではありませんが、それでも痛みには効いてくれるケースが多いです。

過去20年間そうだったように、これからもっともっと鍼灸についていろんな科学的な事実が明らかになってくると思います。

とても楽しみです。

神経系疾患に対する鍼灸

脳卒中(脳出血と脳梗塞)に対する鍼灸についてまず書かれています。
Hsiehら

。初めての脳梗塞の患者に対して従来療法単独プラス3/15Hzの電気鍼を月に8回行なった群と従来療法単独の群との比較をした結果、鍼を加えた群で運動機能が改善。
Johanssonら。脳卒中発症後10日以内の重度の片麻痺患者78人を毎日の理学療法単独群40人と、理学療法プラス2/5Hzの電気鍼30分×2回/週×10週とを比較。鍼群で回復が早く、バランス、ADL、QOLの改善が大。
同じJohansson らの発症後5〜10日の中程度〜重度の片麻痺患者150人に対する多施設研究。20回の電気鍼、経皮的電気刺激(TENS)、サブリミナル電気刺激(知覚されない強度の電気刺激)を10週にわたり行い、フォローアップ3ヶ月後と1年後に評価をしたところ運動機能、歩行能力、ADLに差がなかった。
GosmanとHedströmら。104人に対してADLとQOLに対する鍼灸の効果について研究し、Johansson らと同様の結果。
Szeら。中程度〜重度の脳卒中患者に10回/10週の鍼をした群と標準の運動器リハビリを行なった群とを比較した。有意差なし。
Hu ら。脳卒中発症後 36時間以内の30名の患者に週3回、4週の鍼をしてその後3ヶ月間フォローアップした群とsupportive treatment 単独の群とを比較したところ、28日目と90日目の神経学的アウトカムは鍼群の方が良好で、開始時の神経学的スコアが悪い患者の方が改善が大きかった。
2008年、Hopwood ら。イギリスの5箇所のNHSの病院のリハビリ施設で発症後4〜10日の初めての脳卒中患者92人を対象に4週にわたり12回の電気鍼をした群と、それを模した経皮的電気刺激(TENS)とを比較。Barthel Index、筋力、Motricity Index、Nottingham Health Profile、治療信頼性を評価したが12週、52週で効果に差がなかった。電気鍼群では3週時のMotricity Index スコアに改善があるのが興味深い、と書いてある。
一方で鍼に効果あり、という論文もある。
Naeserら。脳卒中後1〜3ヶ月の右片麻痺患者に対して20回の鍼を1ヶ月間行ったところ偽鍼群よりも効果があった。
Kjendahlら。発症後平均40日の亜急性期患者に対して1回30分、週3〜4回の鍼を6週にわたって行い、運動機能、日々の生活の質、社会との相互関係に改善が見られた。

Liuら。2年以上前に脳卒中を発症した慢性の脳卒中生存者10名に対して1〜2Hzの電気鍼プラス筋力トレーニングのセッションを6週にわたり週2回行った群と筋トレのみの群とを比較。鍼群では手関節の拘縮が改善し、伸展可動域が改善、Fühl-Meyer上肢スコアが改善した。筋拘縮も改善。
百会への鍼プラス回旋術を初回脳梗塞患者に20分行なったところバランス機能が改善。
Rorsman と Johansson は脳卒中発症5〜10日の中程度〜重度の機能障害のある54名の患者に対して電気鍼もしくは経皮的電気刺激(TENS)、無知覚のTENSが脳卒中後の認知機能や感情に及ぼす影響について調べた。鍼は1回30分で週に2回、10週にわたって行われた。治療終了後3週、12ヶ月後に感情の状態や認知機能について有意差はなかった [18]。対照的に、Chau らは内関(PC6)と神門(HT7)への 1Hzでの電気鍼を1回20分、週2回、8週続けると認知障害のある患者の認知機能とQOLによい影響があることを示した[19]。
急性脳卒中の患者での運動機能、ADL、認知機能に対する鍼の効果はまだ論争中である。鍼が脳卒中の患者に価値ある治療かどうかを完全に決定づけるためには、よりしっかりした大規模無作為化比較研究が必要である。

退行性疾患に対する鍼灸治療
3.1. アルツハイマー病及び血管性認知症アルツハイマー病は慢性進行性退行性疾患である。鍼がアルツハイマー病[20]や血管性認知症[21,22]に対して無効であることを明らかにした複数のシステマチックレビューがある。しかしZhou と Jin は鍼がアルツハイマー病の患者に有効であることを示した。研究者らは電気鍼をした26名のアルツハイマー病患者の脳の変化を機能的MRIを用いて評価した。神門(HT7)を陰極、足三里(ST 36)を陽極にして、また豊隆(ST 40)を陰極、太谿(KI3)を陽極にして電気刺激を行なった。これらの経穴に電気刺激を加えると右大脳半球の海馬、島、左大脳半球の側頭葉、 頭頂葉の活動性が高くなることが分かった。これらの部位は記憶や言語などの認知機能と関連があり、これらの経穴への鍼がアルツハイマー病の患者に有用な効果を生じさせることを示唆している[23]。さらにYangらは認知症患者の興奮的な行動の程度を指圧が減少させることを示した。興奮行動が認められる認知症患者20人に週5日、1日2回、5分間のウォームアップ行動の後に風池(GB 20)、百会(GV20)、神門(HT7)、内関(PC6)、三陰交(SP6)に2分間指圧したところ、指圧がこれらの症状を劇的に減少させることを見出した[24]。鍼がアルツハイマー病や血管性認知症の患者に有用な効果を生じるかどうかを決定するには大規模人口での無作為化比較対照二重盲検試験が必要である。

3.2. パーキンソン病
パーキンソン病は中脳の黒質線条体ニューロンの消失と線条体ドーパミンの減少による寡動、振戦、歩行障害が特徴の慢性進行性疾患である。韓国では約63%[25]の、シンガポールでは25%[26]の患者が補完療法として鍼灸を利用しているが、多くの大規模研究がパーキンソン病の症状の改善に対して鍼灸が無効であることを示している[27-30]。小規模研究の結果も同様である。例えばEngらはパーキンソン病患者の治療として鍼灸と陰推拿の組み合わせを6ヶ月間利用し、UPDRSスコアが治療後6ヶ月でベースライン時のスコアより有意に高いことを見出した[31]。加えて、Shulmanらは身体もしくは頭に1回1時間、週2回の鍼をパーキンソン病の患者に5〜8週行うと 睡眠と安静に改善が見られるが、その他の症状は改善しないことを見出した[32]。機能的 MRI研究は陽陵泉(GB34)に鍼をすると被殻と第一次運動野が部分的に活性化することを示した [33]。PET研究は頭蓋鍼灸とマドパ療法を5週間行うとパーキンソン病患者5名に糖代謝の改善が生じることを示した [34]。その他の研究はレポドーパ投与に頭蓋電気鍼を5週間加えると大脳半球内の局所血流が改善するが、基底核の線条体ドーパミントランスポーター濃度に変化はないことを見出した [35]。まとめると、電気鍼を含めた鍼灸はパーキンソン病患者の運動機能や日常生活動作を改善させないようであり、脳の血流や糖代謝は改善させるようであり、これらは鍼がパーキンソン病患者の認知機能低下の遅延に有用であることを示唆している。さらなる大規模研究が行われるべきである。

4. 頭痛に対する鍼灸
4.1. 偏頭痛
頭痛患者では非特異的な心理的介入が改善に大きな役割を果たしていることが複数の研究で示されており、鍼と偽鍼との間に有意差がないことを説明しうる [36]。にも関わらず多くの研究は鍼が特定のタイプの頭痛に有効な治療であることを示している。例えば偏頭痛に対して風池(GB20)と太陽(EX-HN5)に1回30分週2回の鍼を最低10週続けると臨床効果の費用対効果があることを複数の研究が示している [37-39]。またAllaisらは偏頭痛のエピソード中の痛みを減らすために耳で最も有効なポイントを探るため鍼接触テストを利用し、偏頭痛の同側耳珠前内部への半永久的な鍼の挿入が30分以内に痛みを緩和させ、その効果が24時間続くことを見出した [40,41]。480名の偏頭痛患者による多施設一重盲検無作為化比較試験では電気刺激を含め鍼を受けた患者は治療後13-16週の間、偽鍼を受けた患者と比べて偏頭痛の日数が有意に少ないという結果となり、これは鍼が臨床的にわずかな予防効果を生じさせることを示唆している[42]。
その他の研究は鍼灸が偏頭痛の予防薬より効果的であることを示した [43-45]。さらにYangらは攢竹 (BL2),、太陽 (EX-HN5)、印堂 (Ex-HN-3)、風池 (GB20) への鍼が偏頭痛のエピソードを減らし、慢性偏頭痛患者の治療にトピラメートより副作用が少ないことを示した [46]。また鍼がフルナリジンよりも偏頭痛の日数を減らすのにより有効であることを示した複数の研究がある[47]。これまでに言及した所見から鍼は、特に予防的に行われた時には偏頭痛に関する痛みの度合いを減らすのに有効そうである。

4.2. 緊張性頭痛
緊張性頭痛の患者2317名からなる11の臨床試験のコクランレビューは鍼が緊張性頭痛のエピソードが多い患者に対して価値があるというエビデンスを提供した。 数多くの他の研究も鍼が偽鍼に比べて緊張性頭痛の痛みの強さと頻度をより減少させることを示した[48,49]。これより鍼は緊張性頭痛の頻度および痛みのひどさの軽減に効果があると考えられる。

5. てんかんに対する鍼灸
てんかんは神経系のシンクロナイゼーション(同期)の過剰、行動の変化、反復性けいれんに特徴づけられる慢性神経性症状である。ほとんどの研究は鍼灸がてんかんの治療には有効ではないことを示している。例えばコクランレビューの著者らはほとんどのこれらの研究は方法論の質が悪いため、てんかんの治療に鍼灸が有効であることを支持するエビデンスがない、と結論づけている [50]。さらにKloster らは慢性の難治性てんかん患者らのてんかん発作の頻度において太衝(LR3)、合谷(LI4)、百会(GV 20)に 30分の鍼もしくは偽鍼を週3回、7.5週行った場合に両群に差がなく、鍼灸が慢性の難治性てんかんの治療に有用でないことを示している[51]。難治性てんかん患者への同様の研究では鍼が健康関連QOLにも改善を示さないことを示した[52]。故に多くの無作為化比較試験の結果は鍼がてんかんに対して有効な治療ではないことを示唆している。
迷走神経刺激や電気鍼は難治性てんかんの患者に対する神経保護療法として有望である。複数の研究は経穴への刺激が迷走神経を刺激し、迷走神経刺激や電気鍼が脳の同じ中枢をターゲットにしている可能性があることを示している。孤束核は頭蓋あるいは顔、耳部位に迷走神経刺激や電気鍼が行われることで生じる求心性シグナルの部位でもあり、てんかん患者における電気鍼の神経保護作用は迷走神経刺激により孤束核を介して生じる抗炎症および神経栄養作用による可能性がある[53,54]。我々は足三里(ST 36)への2Hz及び100Hzの電気鍼が心拍数を減少させることを見出しているが、これは足三里(ST 36)への電気鍼が副交感神経の活性化を惹起させることを示唆している[55]。 He らは耳鍼が副交感神経の活動性を作動させることによりてんかん発作を抑制させるという仮説を立てた。この副交感神経の緊張の増加は孤束核を活性化させると考えられており、てんかんの病態に関連する構造の抑制や、コリン作動性抗炎症経路を活性化させる可能性がある[56]。特定のけいけつに対する電気鍼が電気鍼による副交感神経活性化の結果、抗てんかん作用を持つかどうかを決定するにはさらなる研究が必要である。

6. 末梢神経病変に対する鍼灸
6.1. ベル麻痺
ベル麻痺は特発性顔面神経麻痺であり、最もよくある一側性末梢性顔面神経障害である。ベル麻痺の原因は不明だが、積み重なるエビデンスはヘルペスウイルス感染の再活性化が発症に重要な役割を果たしていることを示唆している[57,58]。コクランレビューはベル麻痺に対する鍼の効果を支持するにはエビデンスが不適切であると結論づけられているが [59]、多くの研究が鍼は有効だというエビデンスを提供している。例えばLiらは多施設一重盲検比較試験で480名のベル麻痺患者に対して地倉 (ST4)、頬車 (ST6)、合谷(LI4)、陽白 (GB14)、四関 (ST7)、翳風 (TE17) への鍼を1回30分、後に5分間のお灸を週に5回、4週続けると顔面神経機能に有意な改善があることを見出した[60]。さらに鍼は7年のベル麻痺の既往がある患者やベル麻痺の妊婦に対して安全であり、機能と美容の改善に有効であることが示されている [61,62]。鍼がベル麻痺患者に対して適切かつ有効な治療かどうかを決定するためのより厳格な臨床試験が必要である。

6.2. 手根管症候群
手根管症候群 (CTS) は正中神経の絞扼による手の神経疾患である。外科的な減圧術が最終的な治療と考えられているが、ステロイド注射(プレドニゾロンなど)やスプリント(装具)などの保存療法が有効な場合もある[63]。鍼灸はしばしば、特にアジア諸国では治療に加えられる。Simらは鍼を保存療法とした6つの無作為化比較試験を含む11研究に対してレビューを行い、手根管症候群に対する鍼の有効性を支持する十分なエビデンスはないと結論づけた[64]。Yao らは手根管症候群患者 34名が参加した二重盲検比較試験でベーラム鍼がプラセボ鍼よりも上ではないことを見出した[65]。しかしNapadow らは機能的MRIを用いて13名の手根管症候群患者と、年齢性別がマッチした12名の健常者の鍼治療後の体性感覚野皮質の可塑性の違いを評価し、鍼が鍼をして5週後の手根管症候群患者の手の体部位再現に変化があることを見出した。しかしこれらの変化は健常者では認められない [66]。彼らは手根管症候群の患者ではベーラム鍼が視床下部の部位を活性化させ、扁桃体を不活化させるが、健常者ではこれらの変化は見られないことから、鍼灸が辺縁系-辺縁系周囲のネットワークを調整するかもしれないことを示唆することを見出した[67]。さらに大陵 (PC7) と 内関 (PC6)への鍼を週2回、4週続けるとプレドニゾロン投与と同様の効果があり[68]、その効果はコルチコステロイドで得られる効果よりも長く持続することを示した[69]。手根管症候群に対する鍼の効果を証明するにはさらなる研究が必要だが、鍼は手根管症候群患者における保存療法として中程度に効果的なようである。

7. まとめ
鍼灸は亜急性および慢性の脳卒中患者に有用であり、予防的に使われた場合には偏頭痛に有効なようであり、緊張性頭痛には有効であり、ベル麻痺および手根管症候群の付加的療法として有望であることが示されている。鍼灸がアルツハイマー病、血管性認知症、パーキンソン病やてんかんに対して有効な手法であるかどうかを評価するにはより厳格な研究が必要である (Fig. 1)。


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