妊娠しやすいカラダ作り
当院では「神経痛」「関節痛」「五十肩」「肩こり」「腰痛」「寝違い」などの治療を主として取り扱っていますが、妊娠を希望しているご夫婦にも鍼灸はいいのではないかと考えています。その考えの根拠のひとつはスウェーデンのエリザベート・ステナー・ヴィクトリン先生らの研究です。拙い訳文ですが興味があればお読みください。
Julia Johansson 、Elisabet Stener-Victorin
https://www.hindawi.com/journals/ecam/2013/762615/
Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine Volume 2013 (2013), Article ID 762615, 16 pages http://dx.doi.org/10.1155/2013/762615
レビュー:多のう胞性卵巣症候群:鍼灸の排卵誘発効果とそのメカニズム
Julia Johansson 、Elisabet Stener-Victorin
要約
多のう胞性卵巣症候群(PCOS)は出産適齢期の女性に最もよく見られる内分泌疾患で高アンドロゲン血症、排卵障害、多のう胞性卵巣 (PCO)を特徴とする。PCOSは排卵が少ないために起こる女性不妊の主たるもので排卵の管理や月経障害は高額なPCOS治療費の1/3を占めている。 出産に関わる疾患への現行の薬物及び外科的治療は効果があるが心血管合併症や多胎妊娠などの負の副作用に、関連がある。PCOS女性の月経不順と排卵誘発に鍼灸は 効くとされてきた。興味深い結果にも関わらずコントロール群のないトライアルもあるが、このレビューはPCOSの女性での月経障害の調整や排卵誘発のための鍼のランダム化コントロールトライアルの結果にフォーカスしている。より機械的に説明できる見方が提供できるならば、動物実験研究についてもさらなる議論が行われるようになるだろう。
イントロダクション
PCOSは70年以上前から認識されたきたが、まとまった定義がなく、その診断は未だに議論の要因となっている。最も最近では国立衛生局(NIH)、ロッテルダム、高アンドロゲン血症とPCOS協会(AES)の診断基準が臨床で利用されている(table1)。その結果として有病率はまとめるのが困難となり、使われた定義や測定された集団の民族性によって変わる。ほとんどの研究は6〜15%と報告しているが、用いられた診断基準によって20%となることもある[1–3]。定義の違いはPCOSという病気の重症度の幅を広くし、異なる診断基準が用いられた研究を比較する際の懸念材料となる。最近行われたNIHのPCOSに関するワークショップではあらゆるこの先の臨床研究でPCOSのタイプをはっきりと報告するよう勧めている[4, 5]。
PCOSの病態生理と原因
その高い発症頻度にもかかわらずPCOSの原因は不明のままである。臨床症状や生化学的な特徴の不均一性によってPCOSは単疾患であるのか複合疾患であるのかという議論もされてきた。PCOSの症状はしばしば思春期に現れるが、大本は胎生発生期には既にプログラムされているかもしれない [6–8]。PCOSの最も一般的な特徴のひとつはPCOSの女性の85%に現れるインスリン抵抗性である [9]。PCOSの特徴は他にアンドロゲン値の上昇であり、PCOSの女性の60-80%に見られ、多毛、にきび、いくらかの人には脱毛症、といった臨床兆候が現れる[10]。PCOSではアンドロゲン、エストロゲン、性ステロイド前駆体の血中濃度が高くなり、グルクロン酸抱合されたアンドロゲン代謝産物がガスクロマトグラフィー液体クロマトグラフィータンデム質量分析(GC-MS/MS)により証明される[11]。PCOSでのアンドロゲン過剰の大部分は卵巣由来であるが、いくらかは副腎に由来する[12]。PCOSによく見られる高インスリン血症は性ホルモン結合グロブリンの産生を阻害し、さらなる血中遊離アンドロゲン値の上昇に寄与する[13]。Figure1にはPCOSの病態生理が要約してある。
Figure1:PCOSの病態生理の要約。(1)PCOSの高アンドロゲン血症の大部分は卵巣アンドロゲンである。高アンドロゲン血症は卵巣の変化への直接的な作用と(2)卵胞刺激ホルモンが少ないことに関連して、下垂体黄体形成ホルモンのパルス周波数と振幅を増加させる作用がある。(3)さらに副腎のアンドロゲンはPCOSのアンドロゲン過剰に寄与する。(4)代償性高インスリン血症を伴うインスリン抵抗性は卵巣のアンドロゲン産生を促進させ、(5)肝臓での性ホルモン結合グロブリンの産生を減少させ、どちらも生体利用可能なアンドロゲンの貯蔵を増加させる。(6)PCOSは高テストステロン血症、インスリン抵抗性、肥満に関連した筋交感神経活動の増加にも関係がある。(7)おそらく遺伝子の異常がPCOSの病態に寄与する。
LH:黄体形成ホルモン、 FSH:卵胞刺激ホルモン、SHBG: 性ホルモン結合グロブリン、DHEA:デヒドロエピアンドロステロン、DHEAS:デヒドロエピアンドロステロン硫酸
アンドロゲンはPCOSで中心的な位置を占めており、卵巣の携帯に密接に関連し、動物モデルや女性から男性への性転換者におけるPCOSのような状態の原因として十分である [14, 15]。アンドロゲンとインスリンはPCOSの重要な根底にある原因として存在している。いつどこで病態が事実上始まるのかがわかっていないため、いくつかの異なる仮説が存在する。出生前の男性化はPCOSの原因に関する確立された仮説を説明していて、サル、ヒツジ、げっ歯類での動物モデルに基づいて、出生児でのPCOSのいくつかの特徴を与えている[16–19] 。しかしヒトでは妊娠したPCOSの女性で高アンドロゲン血症は見つかっているが[20]、たった一つの研究がPCOSの母体からの新生児の臍帯静脈血中でテストステロン値の増加が質量分析でなく免疫測定法で測定することにより発見しているだけである[21] 。アンドロゲンへの思春期前の被曝が思春期の症状の発現に由来するもう一つの仮説であり[7, 8] 、それによりいくつかのPCOS動物モデルが開発されてきた[22–24] 。
診断基準には関係がないが、PCOSはインスリン抵抗性、高インスリン血症、2型糖尿病、脂質異常症 [25, 26]と強い関連があり、過体重や肥満となっているPCOSの女性の頻度は高い[27] 。アンドロゲンとインスリンのどちらも思春期に増加するので、これら2つはPCOSにおいて重要な役割を担っていると考えられている。
どちらも寄与していそうであるが、一体どちらが病因により関連しているのかはまだ不明である [7, 8]。
遺伝については別として、卵巣ステロイド産生の変化 [28, 29] 、交感神経活動の増加 [30]が原因となるメカニズムに関与するものとして言及されている。
2.1. PCOSの神経内分泌機能不全
PCOSでは視床下部-下垂体-卵巣(HPO)軸が大規模にレビューされてきた[31–34]。異常な卵胞を調節するPCOSの最も明白な神経内分泌的な特徴は少ない卵胞刺激ホルモンの分泌に関連した周波数と増幅の両方に関する黄体形成ホルモンの拍動性の増加である[35–39]。黄体形成ホルモン拍動性の周波数の増加は 低卵胞刺激ホルモン値が卵胞の成熟化と排卵を障害するのに対し、アンドロゲンの卵胞膜細胞産生を増加させる。PCOSでの黄体形成ホルモンの過剰分泌の原因はおそらくゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌の増加というよりはGnRHへの下垂体の感受性の促進あるいはGnRH分泌パターンの変化による[35, 39, 40] 。おそらく慢性的なエストロゲン被曝によるPCOSでのエストロゲンとプロゲステロンのネガティブフィードバックは視床下部のパルス発生装置の後天的な感受性の障害の結果であるようだ [35, 38, 39, 41]。PCOSでの卵胞刺激ホルモン(FSH)値は低値あるいは低い卵胞領域(?)内のようであり、GnRHへの反応は排卵の調整に比較的似ている[35]。性ステロイド産生の変化、代謝機能異常、肥満は黄体形成ホルモン分泌パターンの変化によるものかもしれない。
高アンドロゲン血症そのものはゴナドトロピン分泌と粘稠サークルの原因となる卵巣アンドロゲン産生をさらに増加させるプロゲステロン/エストロゲンのネガティブフィードバックへの視床下部の脱感作を起こすかもしれない[42, 43]。そのメカニズムは不明だが[44–46]、BMIの増加は黄体形成ホルモン分泌の鈍麻効果を持ち[36, 39]、高インスリン血症とインスリン抵抗性は(卵巣ゴナドトロピン刺激性性ステロイド産生の促進による)直接的あるいは間接的に異常なゴナドトロピン分泌に寄与するかもしれない。これらのすべての要素が遊離アンドロゲン値を増加させ、無排卵を起こす。
2.2. PCOSでの卵巣機能障害
PCOSの卵巣機能障害は早期の卵胞成長の過剰と異常な後期段階で起こる期待された成熟以前の卵胞成長の停止による [47]。排卵前に残る主席卵胞の分泌不全を伴う卵胞成長パターンはPCOSと卵巣形態の特徴の一つである。PCOSの卵巣機能障害は臨床的に少/あるいは無排卵と同様に2-9mmの小さな胞状卵胞の集積として描写されるこれらの多嚢胞性卵巣という形態学的な特徴と関連がある。PCOSにおける 少/あるいは無月経という月経不順の頻度は用いられた診断基準によるが、およそ75%である[10]。もしわれわれがNIHの基準を用いればもちろんすべての患者は月経不順を経験する。最終的に妊娠困難のために不妊の原因となる不規則な排卵が認められるだろう。
さらに卵胞の異常は他にもあり、そのほとんど一致する特徴はアンドロゲンの過剰分泌である[48]。卵巣ステロイド産生は成長中の卵胞での卵胞膜と顆粒膜細胞の緊密な連携に基づき、ゴナドトロピンの入力を必要とする(Figure 2) [49]。卵胞膜細胞はΔ4あるいはΔ5経路のいずれかによってコレステロールからアンドロステンジオンを産生し、エストロンやエストラジオールへの変換は顆粒膜細胞を含むアロマターゼチトクロムP-450ヒドロキシラーゼ(CYP19)が独占的に認められる[50]。PCOSの女性は内卵胞膜の肥厚があるようで、卵胞膜細胞の厚い層がアンドロゲンステロイド産生の原因となっているようである。その上、それぞれの卵胞膜細胞は黄体形成ホルモン受容体を多く発現しており、黄体形成ホルモン刺激への感受性が高くなっている [33, 50, 51]。
卵巣内に卵胞細胞を集めて成長させる、PCOSでの卵胞発生障害の原因となりうる局所的なセレクターが存在している。抗ミュラー管ホルモンは早期の胞状および前胞状卵胞によって発現するが、発生の後期段階にはなく、卵胞プールのサイズと活性を反映している[52, 53]。原始卵胞の成長プールへのリクルートメントの調節におけるその関連を示すエビデンスがあるが、おそらく顆粒膜細胞の卵胞刺激ホルモンへの感受性の低下によるものである[54]。遺伝子の除去が比率を増加させるのに対して、抗ミュラー管ホルモンを卵巣培養に加えると成長している卵胞の数が減る[55, 56]。無排卵のPCOSにおける小さな始原的な移行期の卵胞において、抗ミュラー管ホルモンタンパク発現は減少すると報告されている[57]。これが成長中の卵胞の不適切なリクルートメントの原因かもしれない。さらにPCOSの女性の血液循環と胞状卵胞液の両方において抗ミュラー管ホルモン値は上昇しており、これらは治療に対する乏しい生殖反応性に関係している [58–63]。これらの高い血中濃度は発現の増加に代わる顆粒膜細胞の上昇を反映したものかもしれない。このように高い抗ミュラー管ホルモンの値は卵巣刺激ホルモンやエストラジオールの値が低いことと関連しており、抗ミュラー管ホルモンの過剰はPCOSにおいて卵胞の停止の特徴となる卵巣刺激ホルモンによるアロマターゼ活性の不足に関係があると示唆されてきている[62, 64]。さらにテストステロンの被曝は培養された低分子のウシの卵胞の顆粒膜細胞で抗ミュラー管ホルモン発現をダウンレギュレーションし、おそらくPCOSのメカニズム的な根本を表している [65]。
卵巣インヒビンは卵巣で発現し、卵胞刺激ホルモン値を抑制する調節因子として作用する。卵胞刺激ホルモン値の上昇への反応として、インヒビンAが主席卵胞で選択的に産生されるのに対して、インヒビンBは卵胞期の初期に小さな発生中の卵胞で多く発現する。なのでインヒビンBは総卵胞数に関係があり、卵胞の質のマーカーになりうる[66]。しかしインヒビンは卵胞膜細胞でエストラジオール産生のためのアンドロゲンの産生合成を刺激する局所作用もある[66-68]。大部分のPCOS研究は基礎循環インヒビンB値の違いを見出してはいないが、FSHへの反応の異常と増加を見出している。正常な基礎値はPCOSでFSH分泌が減少することによって、あるいは卵胞の質が低いことによって説明されうる。FSHへの反応の増加は単純に前胞状卵胞や小さな胞状卵胞の数の増加によるものであろう[67-70]。その上、PCOSの排卵の停止は卵胞液中のインヒビンAとインヒビンBの値の減少に関係があり、成長中の卵胞内でそれらのプールが増加するが、卵胞発生の障害における可能性のあるアクターとなりえることから、どちらも正常循環値を説明できる(訳が変で意味不明)[71]。
原文はこれ↓
Moreover, /follicular arrest in PCOS/ is associated with /reduced levels of both inhibin A and inhibin B /in follicular fluid, /which/ both/ could explain/ the normal circulating levels /although /their increased pool of growing follicles/, but also /making these /to possible actors in the impaired follicle development[71].
その上、卵胞発達の障害においてインヒビンAとBがその関連因子となる可能性があるだけでなく、成長中の卵胞での蓄えが増加しているとしても、PCOSでの卵胞の停止は卵胞液中のインヒビンAとインヒビンB値の減少と関連があり、これらは正常な血中濃度を説明できる[71]。PCOSにおける血中基礎インヒビンBを測定する診断的価値を示すエビデンスは低い[67,72]。
まとめると、PCOSにおける卵胞形成とステロイド産生には様々な要因があるようであり、おそらくアンドロゲン、インスリン、神経内分泌の変化などの卵巣以外の要素と卵巣内の局所的かつ固有的要素によって影響される。
2.3. 交感神経活動の増加
自律神経系は交感神経と副交感神経の2つからなり、神経伝達物質であるノルアドレナリンとアドレナリン、そしてアドレナリン受容体の活性化によりコントロールされる。正常な、健康な状態では、これらのバランスは良好であり、ホメオスタシスが確保されている。多嚢胞性卵巣や高インスリン血症に関連したインスリン抵抗性、中心性肥満、高血圧などの伝統的なPCOSの要素の多くは交感神経活動性の増加に関連がある[73-76]。それゆえに(交感神経活動性の増加は)この疾患の病因の少なくとも一部分を説明することが示唆されてきた[74,75,77]卵巣の交感神経刺激伝達の増加はカテコラミン作動性神経線維の密度の増加、NGF産生の増加そしてカテコラミン代謝の変化、そしてPCOSの卵巣での取り込みなどの臨床的エビデンスによって支持されるPCOSでの卵胞発達の障害の原因となるかもしれない[75,78,79]
運動後の心拍の回復と心拍変動は自律神経機能の非侵襲的なマーカーとして用いられる。PCOSの女性での測定はそれらがおそらく副交感神経要素の活動性の減少と交感神経要素の増加により、自律神経機能においてダイナミックに活動性を減少させていることを示している[80-83]間接的な測定法も存在するが、それらの正確性には疑問がある。そこでわれわれはPCOSの女性ではテストステロン値の上昇に関連して交感神経活動性が増加している筋交感神経活性(MSNA)の直接的かつ信頼性のある測定法としてマイクロニューログラフによって証明を行なった[30]。
0. PCOS: よく編成された病因論
アンドロゲンはPCOSの病因論において中心的な役割を果たしている。アンドロゲンは単独でこの疾患で障害される系の大部分に作用し、動物モデルや女性から男性への性転換者においてPCOSのような状態を呈すのに十分である[14, 15, 17–19, 84–86]。しかしこれらの変化はそれら自身をさらなる高アンドロゲン状態にしてしまう。その結果、それがいつ始まるのかは明らかではないが、個々がお互いを増強し悪循環が形成される。
PCOSでの高アンドロゲン血症は主に卵巣に由来し、卵巣ゴナドトロピン刺激性性ステロイド産生への効果を促進させるのと同様に、性ステロイドフィードバックシステムを介してゴナドトロピン分泌の上昇により中心的な作用を持つ [12, 42, 43]。アンドロゲンはまた直接的に卵胞発達と成熟を障害し、それによって多嚢胞性卵巣とアンドロゲン産生細胞の卵巣プールの原因となる[12]。これらは両方ともさらなる卵巣アンドロゲン産生と遊離血中アンドロゲン値の上昇させる加えて、そのメカニズムは完全には明らかではないが、副腎におけるアンドロゲン産生はPCOSでのアンドロゲン過剰の原因となる[87, 88]。
アンドロゲン過剰はインスリン抵抗性の第1の原因ではないかもしれないが、アンドロゲンはアテローム形成性の血中脂質プロファイル、脂肪細胞サイズの拡大、末梢インスリン抵抗性の増大と関連がある[89–91]。その上、肥満と共にこのことは2型糖尿病と心臓血管病(CVD)のリスクを増大させる[27]。アンドロゲンと同様にインスリン抵抗性と高インスリン血症は卵巣ゴナドトロピン刺激性性ステロイド産生を促進させ[12, 44–46] 、メカニズムは明らかではないがゴナドトロピン分泌異常の原因となるかもしれない[44–46]。高インスリン血症はまた生物的に利用可能な遊離性ステロイドの量を増やす肝臓での性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の産生も減少させる[13]。
PCOSはMSNAの上昇に関連があり、特に興味を引くのはテストステロン濃度が強力な独立した予測因子となることが知られていることである[30]。交感神経活動性の増加は高インスリン血症を伴うインスリン抵抗性、中心性肥満と高血圧に関連があり[73–76] 、心臓血管病リスクの増大の原因となりうる[30]。さらなるアンドロゲン産生と多嚢胞性卵巣を生じうる[93]、卵巣への交感神経活動性の増加を支持するエビデンスもある[75, 78, 79, 92] 。これまでに示した要素はさておき、症例や症状の家族的な集合を伴う強力な遺伝的要素があり[94, 95] 、それはおそらくPCOSの病因と関係がある。要するに、PCOSは悪循環の中のそれぞれの要素が強く影響し合って病態を形作っていて、病因を個別に分けるのは困難である。
4.鍼灸メカニズムの仮説
鍼灸は現在より多くの症状の治療のため、西側世界で広く行われている[96]。比較的安全な治療で副作用がほとんどない[97]。
ツボあるいは経穴と呼ばれる身体中の領域で細い鍼を皮膚内や筋内に当てる鍼灸は伝統漢法医学に由来する。
それから鍼を回旋させたり雀啄したりしててで刺激を加える。これをマニュアル鍼灸と呼ぶ。 電気を応用し、2本の鍼を電極にして電流を通すことで刺激を加える。これを電気鍼(EA)という。筋収縮を起こす強さの低周波(1-15Hz)電気鍼は運動作用に類似の生物学的作用を獲得すると考えらている。 西洋の科学的視点からの鍼灸は経穴特異性を確かめることはできず、代わりに相当する体節レベルでの求心性感覚神経線維の活性化を伴う作用を説明する[98, 99]。鍼灸は末梢(局所)、体節(脊髄内)、中枢神経系(CNS)内の上脊髄レベルで神経伝達路を活性化し調節する。 Figure 3 はPCOSでの鍼灸の作用を説明するメカニズムの仮説をイラスト化したもの。
Figure 3 : PCOSにおける鍼灸メカニズムの仮説の模式的な説明
(1)骨格筋での鍼灸針の刺激は求心性感覚神経線維を活性化する伸展受容器を興奮させる。これらのシグナルは脊髄に伝達される。(2)同じ神経支配の標的臓器への交感神経性出力の調節が脊髄反射を介して起こりうる。(3)シグナルは上脊髄経路を介して中枢神経系に届き、中枢神経系の効果を発現する。視床下部のβエンドルフィンが鍼の効果に関係している。βエンドルフィンは自律神経系を調節するだけでなくゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)とコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)の放出にも変化を及ぼしうる。(4)これらは生殖機能(黄体形成ホルモンや卵胞刺激ホルモン)に、副腎機能(ACTH)に、膵臓機能(循環βエンドルフィン)への効果を可能にしうる。
末梢レベルから始めてマニュアルと電気刺激はどちらもブドウ糖の取り込みと微小循環を増加させた[100-103]。鍼が刺入され、刺激された時に末梢神経終末は神経ペプチドY(NPY)、血管作動性腸管ポリペプチド(VIP)、サブスタンスP、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)といったいくつかの神経ペプチドを放出し、後ろ2つが関連するであろう即時的な微小循環の増加を伴う局所反応をもたらす[100, 104, 105]。その上オピオイド拮抗薬であるナロキソンを加えた場合のデータは低周波電化鍼は末梢でのオピオイド放出を刺激することも示している[106]。
機械的な圧力や歪みの反応する機械受容器は筋収縮によって活性化され、マニュアル及び電気刺激への身体の反応に関係がある[107, 108]。マニュアル及び電気刺激による機械受容器の活性化は感覚神経線維であるミエリン化Aα、δ、無髄のC線維を活性化させる[109, 110] 。これらのシグナルは脊髄(体節レベル)に伝達され、鍼が置かれたのと同じ神経支配の標的臓器への交感神経出力を調整する
[111]。重要なことにこれらのシグナルは中枢神経系(CNS)内の上脊髄経路を介してコントロールされる[112]。
鍼灸の鎮痛作用は広範囲に研究され、広く利用されている。
中枢神経系内の内因性のオピオイドの関与が鎮痛を引き起こし、血圧を低下させる作用を仲介することが示されてきた[113–116]。末梢求心性神経終末や侵害受容と痛みに関連した中枢神経系内の領域でμ、δ、κの3つのオピオイド受容体が見つかっている[117, 118]。プロオピオメラノコルチン(POMC)の分解産物のひとつであるβエンドルフィンはμ受容体に高い親和性を持って結合し、特別な注意を引いている[117]。視床下部内基底側の弓状核で産生されたβエンドルフィンは中枢神経系内に放出されるが、下垂体でも産生され、末梢循環中に放出される[119–121]。下垂体で産生されたβエンドルフィンは痛覚と自律神経機能に影響を及ぼす中脳(特に中脳水道周囲灰白質)と脳幹の核に放出される[120, 121]。自律神経機能への作用は血圧調整と筋交感神経活動性(交感神経緊張のマーカー)を伴う血管運動中枢への作用を含む[122]。その他の系もコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)によって視床下部のコントロール下にあり、POMCが同量のβエンドルフィン、メラノサイト刺激ホルモン、副腎刺激ホルモン(ACTH)に分解され、循環中に放出される[123]。2つの系は独立しているが、鍼灸針のマニュアル及び低周波電化鍼の刺激や運動などの求心性神経の活性化によって活性化される[120]。
βエンドルフィン系は生殖機能、鎮痛、ストレス反応、炭水化物代謝など、中枢と末梢での多くの生理学的作用に関連がある[124]。血中と脳内のβエンドルフィンの値は共に鍼灸によって調節されることが示されてきている[125–127]。鍼灸が関連する自律神経機能の調節のさらなる影響はMSNAと血圧を降下させる作用である[128, 129]。鍼灸の痛みを和らげる作用はオピオイド受容体拮抗薬であるわずかな量のナロキソンでブロックされ、ナロキソンの投与量を増やすと血圧が抑制される[129, 130]。
中枢のβエンドルフィンと生殖機能の関係はGnRHとそれに続く黄体形成ホルモン放出の直接的かつ間接的な持続性阻害作用と関連があり、おそらくGnRHの生合成とも関連がある[121, 131]。オピオイドがエストロゲンの阻害作用を持つことは一般に受け入れられている[132]。その上、オピオイド阻害緊張の減少は黄体形成ホルモンの急な変動の発生と先行する排卵を増強し、また必須である [121, 133]。
循環βエンドルフィンは事実上の中枢オピオイド活性の反射よりもよりストレス刺激に関連があると考えらており、中枢活動性のマーカーとして用いられるべきではない[134]。それでもなお、βエンドルフィンは下垂体からのACTHと共に放出されるので、血漿βエンドルフィンの変化は視床下部下垂体軸(HPA)へのリンクを提供する[123]。調節因子のCRHはストレスによって放出されるが、それはGnRH分泌を減少させることが知られており、生殖軸に戻ることと関連がある[135]。鍼灸は視床下部内のCRH値を減少させることが示されており、それゆえにHPOとHPA軸のどちらにも効果を表しうる[136]。
4.1. 鍼灸の対照群
鍼灸は心理的な要素が強くあるので、一般に鍼灸の作用は患者自身の期待によっても影響される[137]。そのため鍼灸の実験でのプラセボの利用はいつも議論の的であり、適切なコントロール(対照群)を開発する努力がなされてきた。.しかしプラセボ鍼と呼ばれたり、ミニマルなあるいは偽の鍼は臨床研究において無効な治療でないことが示唆されているため、真の対照群とは言えない[138, 139]。
4.2. PCOSにおける排卵の誘発のための鍼灸の影響
PCOSの特徴の多くがゴナドトロピン分泌の乱れ、インスリン抵抗性、中心性肥満を含むオピオイドの乱れあるいは交感神経緊張感と関連があり[74, 124]、オピオイドや交感神経緊張は病態の原因に関係している。PCOSの女性は血中のβエンドルフィン値が高いが、おそらく中枢神経系内のβエンドルフィンによるGnRHの不十分な阻害によるものかもしれない [124, 140–142]。様々な研究によりμ受容体拮抗薬であるナロキソンが性周期やSHBGを改善させ、アンドロゲン値、LH/FSH比、黄体形成ホルモンのGnRHへの反応を減少させることが支持されている[143–145]。
鍼灸とβエンドルフィン、交感神経の活動性との関係はPCOSにおいても一貫しているようである。
鍼灸治療は高βエンドルフィン血症と交感神経活動性を減少させ、手の低皮膚温を上昇させることが示されてきている[30, 128, 146]。交感神経系の関与と神経原生の卵巣コントロールの変化はPCOSの病因に関与している[111, 112, 147, 148]。自律神経と卵巣の作用を組み合わせた効果のための仮説的な媒介物質は神経成長因子(NGF)である。卵巣のNGF産生はPCOSの女性とエストラジオールと吉草酸エステルでPCOSにしたラットで卵胞液を増加させる[92, 149, 150]。形質転換マウスの卵巣でのNGFの過剰発現は卵巣の過剰神経支配、卵胞成長の停止、ゴナドトロピンへの卵巣ステロイドの上昇などを生じる[92]。卵巣のアドレナリン受容体は吉草酸エステルでPCOSにしたラットで増加することも示されており、卵巣機能の調節への交感神経系の関与が示唆されている[151]。電化鍼は吉草酸エステルでのPCOSモデルにおいて高濃度の卵巣NGFと[149, 150]、アドレナリン受容体を減少させ[152]、DHTでPCOSにしたモデルの脂肪におけるNGFのmRNAの発現過剰と交感神経活動性のいくつかのマーカーを減少させることが示されてきている[153]。マイクロニューログラフでの測定はPCOSの女性が鍼灸を14回受けるとMSNA高値が下がることが証明されており、PCOSの病因と鍼灸の機械的作用がともに交感神経系に関与していることを示している[30]。μ受容体拮抗薬であるナロキソンは排卵を引き起こし、黄体形成ホルモン濃度を下げることはPCOSにおいてβエンドルフィンの役割を示唆している[143–145]。βエンドルフィン値の低下と共に[146]類似した効果が電化鍼によっても仲介され[146, 154, 155] 基盤となるメカニズムにオピオイド系が関与していることを暗に示している。これは鍼灸針の電化刺激が月経周期を改善させ、血中テストステロン値を減少させると同時に、オピオイド受容体μとκがラットの視床下部での発現に影響するという我々の最近の実験研究も支持している [156]。
5. PCOSの生殖機能の治療法
PCOSの不均一性や病因の不確実性により、現時点では治癒することがない。そのため対症療法的に、しばしば長期にわたり治療が行われ、副作用に関連がある。
食事や運動などの生活習慣の改善が過体重あるいは肥満を伴うPCOSの大部分の女性への第1選択の治療法としてしばしば推奨される。体組成、高アンドロゲン血症、新血管代謝の概要、インスリン感受性や血中脂質、自律神経機能や炎症パターンなどPCOSの重要な特徴のいくつかが改善する[157–166]。クエン酸クロミフェン単独あるいはクエン酸クロミフェンを加えた場合[162]、効果には卵巣機能や妊娠の改善なども含まれ[158, 160, 163, 167, 168] 、適度な(5%)減量は代謝と生殖機能を改善すると報告されている[169]。
妊娠を希望しない女性には経口避妊薬と組み合わせることが月経パターンの調整とアンドロゲン値を下げるためにしばしば用いられる
[25]。しかし経口避妊薬の使用は肥満やインスリン抵抗性、心血管病リスクに苦しむPCOSの女性では禁忌となりうる[25]。
定義れていない無排卵とPCOSの女性での鍼灸の非ランダム化研究は月経パターン、LH/FSH比、エストロゲン、テストステロンの改善が見られた[146, 154, 155]。卵巣機能の効果を調べたRCTは1回30分のマニュアル鍼灸刺激と2Hzの低周波電気鍼刺激がランデバプロトコルによる16週の運動よりも上であり[170]、どの治療介入も月経頻度の改善やテストステロン値の減少させなかった[166]。鍼は卵巣と同じ体節の神経支配の腹部と下肢に打った。治療の期間は16週で女性らは最初の2週は週2回、次の8週は週に1回、その後は隔週で計14回の治療を受けた。 同時に、Pastoreらは朴デバイスを用いて真の鍼と偽の鍼との効果の比較を行った[171]。彼らは14週にわたり12回、古いプロトコルに沿って真の鍼のグループでの鍼の位置と刺激を受けた[172]They received 12 treatments over 14 weeks and the needle placement and stimulation in the true acupuncture group followed an old protocol [172]。どちらのグループも月経周期を改善し、治療の前後で両グループに排卵比率の違いは見られなかったことから偽のデバイスはまったく無効とは言えないことを示唆している。より最近のRCTではさらに3ヶ月に渡る鍼灸あるいはアテンションコントロール治療期間でプロゲステロンの週1回の測定と月経出血登録によりPCOSの女性の排卵周期を決定した。この研究では女性らは前回の研究時と類似の鍼の位置で研究期間中週2回の鍼灸を受け、より高頻度という意味で強力であと言える。鍼灸治療に割り当てられたグループはアテンションコントロールグループに比べて高い排卵頻度があり[173],、治療回数の少なかった前のPCOSの臨床研究に比べた際に効果が増強されたことは刺激量に反応した作用だということを示唆している[166, 171, 172]。加えて、アテンションコントロールグループの排卵頻度[173]はCC刺激の期間中の排卵頻度[174]とは前のPCOSの鍼灸研究と同様に同等であった[171]。支持する動物のデータはDHTによるPCOSラットモデルでのプロゲステロン値の上昇[156]を伴う卵巣形態の改善[153]、発情周期の回復[47,156]がある[22]。その上、2つの様式:電気鍼刺激とマニュアル鍼刺激間の発情周期の改善の明らかな違いはなかった[156]。ラットとヒトでの研究における排卵に関するパラレル効果は橋渡し的な本質により結果を増強する。The parallel effect regarding ovulation in the rat and human studies strengthens the result by the translational nature. 最近のRCTにおける卵巣形態に先立ち、9mm以下の胞状卵胞や卵巣体積を数えた時、グループ間に違いが見られなかった[173]。Proceeding to ovarian morphology in the recent RCT, no group differences were observed when counting antral follicles ≤9 mm or ovarian volume [173]しかし、胞状卵胞の数と卵巣体積が減少する傾向が鍼灸グループ内で観察された[173]。これは電気鍼がDHTによるPCOSラットでの卵巣形態を改善させた先の動物実験とも一致している[153]。加えて、先の研究[60]と一致して我々は鍼灸後の血中インヒビンB値がAMHの変化なく減少することを見つけた[173] 。これは卵胞プールの減少と卵胞発達の改善の模倣?、卵巣性ステロイドの減少を表す[66–68, 71]。This may either represent a decreased size of the follicular pool or mimic an improved follicular development and reduced levels of ovarian sex steroids [66–68, 71]. その上、もっとも循環している性ステロイド(E1、E1-S、E2、T、free-T、DHT)、性ステロイド前駆体(DHEA、DHEA-S)、グルクロン酸抱合したアンドロゲン代謝産物(ADT-G、AD3G、AD17G)のデルタ変化は質量分析により決定され、介入グループ間で異なっていた。E1-S、E2、DHEA、free-TとADT-Gの違いはボンフェローニ補正・・・Differences in E1-S, E2, DHEA, free-T, and ADT-G held for bonferroni correction. 鍼灸はベースラインから治療後のE1, E1-S, E2, DHEA, DHEA-S, 4-DIONE, Tと遊離T 値を減少させた[173]。これはこれらのステロイドのいくつかが減少するとした我々の先のRCTと一致また展開している[166]。また臨床データはDHTでPCOSにしたラットでの低周波電気刺激を伴う鍼がテストステロン値を下げるという実験データと一致している[156]。排卵と性ステロイドに関する促進作用は鍼灸と運動の14回の治療と比べて、我々の先の研究が刺激量反応性の効果を推量させたように20回以上の頻回の治療を行ったことによって説明されうる[166, 173, 175, 176]。
5.2. 知識の空白
先の研究では鍼灸は排卵を引き起こし、PCOSの女性の妊娠につながるかもしれないことが示唆された[166, 173]。しかしどのトライアルも妊娠あるいは出産を研究するためにデザインされたものではなかった。この知識の空白は中共で進行中のヘッドトゥーヘッドの多施設RCT (ClinicalTrials.gov: NCT01573858)に取り組まれている。このトライアルはPCOSの女性での以下の仮説: (1)真の鍼とCCはコントロールの鍼とCCよりも排卵と妊娠を起こしやすくするであろうこと(2)コントロールの鍼とCCは真の鍼とプラセボCCよりも排卵を起こしやすくするであろうこと(3)真の鍼とプラセボCCはコントロールの鍼とプラセボCCよりも出産しやすくなるであろうこと、をテストした。
5.3. 鍼灸のPCOSにおける神経内分泌機能
PCOSの女性とDHTで作成したPCOSラットでの排卵への効果のための可能性のある説明を解明するために、黄体形成ホルモンの拍動性を測定する研究と他の神経内分泌機能を調査する実験的な研究が行われ、ばらついた結果が得られた[156, 173, 184]。
ラットではGnRH密度ののもっとも高いニューロンは吻側内側中隔(MS)、ブローカ対角帯、内側視索前野(MPO)に位置していた[185]。
ほとんどのGnRHニューロンは視床下部の内基底側を介してGnRHが下垂体門脈血に放出される正中隆起に投影される[186, 187]Most GnRH neurons send projections via mediobasal hypothalamus down to the median eminence where GnRH is released into pituitary portal blood [186, 187]. DHTで作成したPCOSラットではコントロールラットに比べて内側視索前野(MPO)でのGnRH免疫反応性 (GnRH-ir)細胞や対角帯水平脚(HDB)がより多く存在するようだった[184]。In DHT-induced PCOS rats, there seem to be more GnRH-immunoreactive (GnRH-ir) cells in the MPO and horizontal limb of the diagonal band (HDB) than in control rats [184]. さらにウエスタンブロット法と免疫組織化学(IHC)によりコントロールと比べて、PCOSラットは視床下部の機能的に活発なアンドロゲン受容体とMPOのアンドロゲン免疫反応性細胞のレベルが上昇していることが分かった。これはアンドロゲンがGnRHニューロンを調整する作用があることを意味している。その上、GnRH免疫反応性細胞と視床下部のARの増加は電気鍼治療後に減少していた[184]。エストロゲン受容体βはGnRHニューロンと共存することが既に示されているので、GnRHの調節へのエストロゲンの直接作用が示されている[188]。ARとGnRHニューロンとの共存も証明されているので、直接的なアンドロゲンの調整がGnRHをコントロールするという仮説を増強する[184]。It has also demonstrated a colocalization of AR and GnRH neurons that further strengthens the hypothesis of a direct androgenic regulatory control on GnRH neurons [184]. よって、GnRHの異常と電気鍼の作用は共に視床下部のARを介して伝達されていることを示している。その上先の研究は血中エストラジオール値はDHTで作成したPCOSラットでは変化しないことを示したので、これがアンドロゲンの作用であるという結論を支持する[22]。
弓状核はラットの脳でのGnRHパルス発生源の根本となる部位であると考えられているが、視索前野が排卵前期の黄体形成ホルモンの動揺をコントロールするGnRH分泌の動揺を調節していることは [132, 189]、MPOでの所見をより興味深いものにしている。
出生前にアンドロゲンを投与するとGnRHへの下垂体の反応性に影響なく黄体形成ホルモンの拍動性が上昇し、またGnRHパルス発生源での促進を示唆するエストロゲンによる黄体形成ホルモンの動揺の消滅が起こることが既に示されている。エストラジオールで引き起こされた視索前野でのプロゲステロン受容体(PR)発現の一時的な減少はアンドロゲンがこの作用にどれほど関係しているかの証拠と考えられる[190]。成獣ラットへの4日間に渡るアンドロゲンの投与は黄体形成ホルモンの動揺とプロゲステロン受容体発現の上で似たような結果を生じるが、代わりの黄体形成ホルモンとおそらくGnRHの低下と比べると、ヒトでのPCOSとは反対に、雄での反応[191, 192] と似たような結果を生じる。4-day administration of androgens to adult rats produced similar results on the LH surge and PR expression but with the contrast of an instead decreased LH and possibly GnRH secretion, similar to the male response [191, 192] and in oppose to human PCOS. これらの結果は成獣での高アンドロゲン血症の直接作用とは異なる出生前期間のアンドロゲンのプログラム効果を示唆する。DHTで作成したPCOSモデルでは、ラットは成獣までの21日間アンドロゲンに被曝させ続けたので、GnRH/LH動揺の消失を伴うGnRH分泌と起こることがありうる [191, 192]。MPOでのアンドロゲン受容体への作用によるGnRHの回復と黄体形成ホルモンの動揺は電気鍼後の発情周期の改善の背後にあるメカニズムの少なくとも一部分であると推測する方もいるかもしれない。後継の研究は視床下部のGnRHとARの発現の影響を確かめられてはいないが、これらの測定はmRNAレベルで行われた[156]。これはこの作用が遺伝子発現の変化よりもむしろ翻訳後の出来事に関連があることを意味している。しかし黄体形成ホルモンの拍動性の測定が生理作用を確かめるためにDHTでPCOSにしたラットモデルで電気鍼の前後で行われたことはない。
PCOSの女性での鍼灸による排卵頻度の高さはゴナドトロピン分泌の回復によるものだという仮説は最近のRCTでテストされた173]。しかしどの黄体形成ホルモンの拍動性の測定も3ヶ月に渡る週2回の鍼灸治療によって影響を受けなかった。鍼灸グループでの高い排卵頻度を伴う主要な作用と血中インヒビンB値の低下は血中性ステロイド、アンドロゲン前駆体、グルクロン酸抱合アンドロゲン代謝産物を治療後に低下させ、卵巣及び副腎レベルでの作用を指し示している。The major effect accompanying the higher ovulation frequency and reduced circulating inhibin B levels in the acupuncture group was the general decrease in circulating sex steroids, androgen precursors, and glucuronidated androgen metabolites after treatment, pointing towards an effect at ovarian and adrenal levels. しかしこれは中枢でのコントロールメカニズムの関連を除外するものではない[173]。
PCOSの女性で偽鍼と真の鍼を比較した早期のRCTはLH/FSH比かどちらのグループでも高い排卵頻度を伴って減少させた[171]。最新のRCT[173]での黄体形成ホルモンの拍動性への作用の不足は交絡因子となりうる月経周期のサンプリングタイミングによるものかもしれない[44, 193, 194]。エンドポイントの終夜の血液サンプリングの大部分は周期の4-10日目(卵胞中期から後期)に行われた。The majority of endpoint overnight blood sampling was performed during cycle day 8–10 (mid to late follicular phase). もし血液サンプリングが、卵胞前期に行われれば効果が見られたかもしれない[173]。
6. ディスカッション
PCOSの悪循環はアンドロゲン、インスリンあるいはその他の要素によってお互いに増悪しあうことが特徴だが、PCOSの女性の健康状態の改善のためにはそれを壊さなくてはならない。薬物療法は効果的であるが、好ましくない副作用にも関連がある[97]。このレビューはPCOSの女性での生殖系と内分泌系の障害のための治療オプションとしての鍼灸について言及している。複数のの臨時実験や動物実験が鍼灸はPCOSの卵巣機能障害に有効であることを示唆している。これは性ステロイドとおそらくインヒビンB値の低下にも関連がある。臨床データはこの作用のメディエーターとしての黄体形成ホルモン の拍動性/分泌パターンの変化を支持していないが [82]、中枢の要素がおそらくオピオイドと交感神経活動性の両方と関連があり、その作用はアンドロゲン受容体を介することを示す強力な証拠がある。しかし排卵や性ステロイドの変化の原因を決定することは困難であることは困難である。内因性の卵巣異常の正常化が卵胞成長の増悪を和らげることによってアンドロゲン値の低下は卵胞成熟過程を回復させ排卵に導く[12]。外的な因子、卵胞成長の回復、低いプールとアンドロゲン産生細胞の活性化によるアンドロゲン値の低下によって 排卵が改善するようなその他の方法もあるかもしれない[32]。It could also be the other way around that improved ovulation, possibly caused by external factors, restoring follicular growth and/or aberrations and thereby reducing androgen levels due to the lower pool and/or activity of androgen producing cells [32].
月経と排卵パターンの改善は妊娠を希望しない女性にとっても希望する女性にとっても有益であることは言うまでもない。
さらなる研究で鍼灸がPCOSの女性における妊娠と出生率を改善するかどうかを確かめる必要がある。
従来療法の戦略内で鍼灸を行う目的のためには第一選択の薬物療法オプションとの比較をすることも重要である。
これは鍼灸を治療法として支持し、認可するために大変重要だ。鍼灸作用の根底にあるメカニズムを研究することは薬物療法も含むその他の代替療法の探索にも役立ちうる。
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