肺がんによる呼吸困難の緩和と円皮鍼
肺がんに関する鍼の論文の抄録を読みました。
ロンドンのがん治療専門施設の173名の進行性非小細胞肺がんと中皮腫の患者を鍼群、モルヒネ群、鍼とモルヒネ群の3グループに無作為に分けて、肺がんに非常によくある呼吸困難の症状の緩和への鍼の効果を検討しています。
この研究で使われたのはおそらく円皮鍼と呼ばれる鍼で、これを胸骨柄、傍脊椎、僧帽筋のトリガーポイントと合谷という親指と人差し指の間にあるツボに貼り付けて、呼吸が苦しい時にそこをマッサージすると少し楽になるようです。
報告では「鍼は呼吸困難の治療においてモルヒネと同程度の効果があり、不安やリラックスにも付加的な価値がある。鍼はモルヒネを節約する。」としています。
これを読んで間もなくこの鍼が本当に効果を発揮するか試す機会がありました。論文中で使った経穴は左右の合谷、璇璣、左右の肩上兪、左右の大杼あたりだと思われ、ここにこの研究者らが用いた鍼と同様かと思われるセイリンパイオネックス0.6㎜を貼り付けたところ、翌日の夕方、アシスタントの植松さんに「随分と楽になった」と連絡があつたそうです。
今回のように鍼の論文を読んで実際に鍼をしてその通りの効果が得られると、中学生の時に英語を習って、初めてネイティヴに英語が通じた時のような感動がありますね。
これからも肺がんの呼吸困難の方がいたら、試してみたいです。
参考文献:
A randomised study comparing the effectiveness of acupuncture or morphine versus the combination for the relief of dyspnoea in patients with advanced non-small cell lung cancer and mesothelioma.Minchom A, et al. Eur J Cancer. 2016.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27156228/
非小細胞肺がん及び中皮腫の患者らにおける呼吸困難の緩和のための鍼あるいはモルヒネvsその組み合わせの効果を比較したランダム化試験
背景:呼吸困難は肺がんにおいてよくある症状である。呼吸困難のコントロールにはモルヒネが広く利用されている。
方法:我々はVASで呼吸困難スコア‡4の173名の進行性非小細胞肺がんあるいは中皮腫の患者らを3群(鍼[A]、モルヒネ[M]、これらの組み合わせ[AM])に無作為に振り分けた。
Aは胸骨上、傍脊椎、手、僧帽筋のトリガーポイントに鍼をした。半永続的な鍼の鋲が胸骨の正中上方のポイント(胸骨柄)に刺入され、患者らは呼吸困難時にそこをマッサージするよう指導された。
A群は必要に応じてレスキューモルヒネを投与された。我々はVASでの呼吸困難、リラックス、肺機能検査、EORTC QLQ-30/QLQ-LC13質問票をベースライン時、30分、90分、4時間、2、7、14日めに記録した。
第1エンドポイントは4時間時の呼吸困難のVASが‡1.5改善した患者の割合だった。
結果:呼吸困難はA群の患者の74%、M群の60%、AM群の66%においてVASで‡ 1.5 ポイント改善した(A vs M p=0.12, AM vs M p=0.50)。
リラックスのVASの平均はM群(0.19–2.43;p<0.001)と比較してA群(-1.06 – 2.60)、AM群( - 1.48 – 2.05)で改善させた。
7日めのVAS不安スコアの平均LARはM群(0; p=0.003)と比較してA群(1.50)、AM群(1.2)と改善した。
7日めのVASリラックススコアの平均LARはM群(0;p = 0.006)と比較してA群(-1)、AM群(-0.94)と改善した。
A群の患者らの21%、M群の87%、AM群の87%は1回以上モルヒネを用いた(p < 0.001)。A群の8%、M群の35%、AM群の39%はモルヒネの毒性に一致したグレード1/2の毒性を報告した。
2つのケースで皮膚刺激が鍼部位の発赤を生じさせた。
まとめ:鍼は呼吸困難の治療においてモルヒネと同程度の効果があり、不安やリラックスにも付加的な価値がある。鍼はモルヒネを節約する。鍼は呼吸困難のがん患者らに役立つ治療である。
0コメント