抗凝固薬を使用中の患者での鍼灸の安全性
土曜日に鍼治療した方で鍼を抜いた後に出血が止まりにくかったところが2箇所もあった方がいました。「青汁」を飲んでいたそうです。経験上「青汁」を飲んでいる方は鍼を抜いた時に出血する頻度が高い傾向があります。またバイアスピリンなどの脳梗塞を予防するための血液を固まりにくくするお薬を服薬中の方も同様の現象が起こりやすくなります。
以下はそのような場合に鍼をした時の安全性について議論した論文の訳文です。よく分からない文は原文を訳文の後ろにそのまま残してあります。
抗凝固薬を使用中の患者での鍼灸の安全性:システマチックレビューMichael McCulloch, LAc, MPH, PhD, Arian Nachat, MD, […], and Joseph Cook, JD
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4315381/#!po=43.0000
要約
イントロダクション:理論的に抗凝固薬を使用中の患者での鍼灸は出血リスクが高いはずである。しかし抗凝固薬を使用中の患者での鍼灸からの正確な出血併発率の見積もりはシステマチックに確かめられていない。
目的:抗凝固薬を使用中の患者での鍼灸の安全性の証拠を批判的に評価すること
方法:PubMed, EMBASE, the Physiotherapy Evidence Database, Google Scholarを調べた。
結果:39の関連のありそうな引用論文のうち2つのランダム化トライアル、4つのケースシリーズ、5つのケースレポートの計11が基準を満たした。7つが鍼灸の安全性を評価するのに十分なレポートの質を提供していて、その患者数は384名(治療回数は3974回)だった。
抗凝固薬を使用中の患者での鍼灸に関連する低〜中程度の出血のケースが1つあり、それは大きなお尻の血腫であり、医学的な根拠の再評価の後にビタミンKを戻し、ワーファリンを中止して管理した(ビタミンKは血液凝固に必要な因子)。鍼/注射によくあり圧迫/脱脂綿でコントロール可能な点状出血は229名のケースシリーズのうち350回のうち51回(14.6%)あった。抗凝固薬を使用中の鍼灸は5名で起こった出血には関連しておらず、むしろ不適切な深鍼が組織を損傷したり、あるいは抗凝固薬の副作用の結果だと考えられる。(74名の抗凝固薬を使用中の患者での)2つの研究では出血は報告されなかった:1つのケースレポートと鍼灸に関連した出血を明確なエンドポイントとして前向きにモニターした1つのランダム化トライアル。全体では3974回の治療で1回の中程度の出血があった(0.003%)。
結論:鍼灸は適切な刺入部位や深さであれば抗凝固薬を使用中の患者でも安全なようである。0.003%という併発率は27360名の抗凝固薬を使用中の患者でのランダム化トライアルで股関節/膝の置換術後の12.3%という先の報告や229230名のあらゆるタイプの患者での前向き研究での鍼灸の6%よりも低い。前向きトライアルは我々の所見を確かめるのに役立つだろう。
イントロダクション
鍼灸は生理機能や神経機能の調節を意図した治療法であり、新石器時代の鍼灸の道具が見つかっており、殷王朝時代に鍼灸について書かれた文章が見つかっている (1766 BC to 1046 BC)(1 )。鍼灸の鍼刺激は皮質ネットワークの上向き調節と辺縁系-傍辺縁系新皮質ネットワークの下向き調節を通じた治療効果を獲得する。その痛みへの効果は同時に起こる感覚、認知、感情の経路の変化のコンビネーションである(2)。 鍼灸はがん(3-6)、心房細動(7-9)急性虚血性脳卒中(10)、虚血性脳卒中後(11)、術後疼痛(12)、腎疾患(13)、重篤な集中治療中の患者(14)、人工呼吸器をつけている患者抗凝固薬を処方されている患者(15)の症状にも有効である。鍼灸に使われる鍼は0.12㎜(日本のゲージ)から0.35㎜(シナのゲージ)まで幅があるが、我々のデータの検索では鍼灸治療の安全性上の鍼のゲージ上の作用について実験した報告は特定できなかった。
抗凝固薬は病院やコミュニティケアの場で安全性が証明された上で凝固障害や血栓現象の予防のために広く使用されている。19958名の入院中(周術期でない)の患者で抗凝固薬予防治療と治療なしを比べたランダム化トライアルのメタアナリシスは大出血の増加が認められないことを示した(16)脳卒中直後や冠状動脈ステントに使うクロピドグレル(プラビックス)、心房細動の患者で血栓の予防に使うワーファリン(17)、あるいは深部静脈血栓や肺血栓(17)、長期入院での血栓塞栓症(19)、肝硬変(20)やがん(21, 22)での血栓塞栓症の予防のための低分子量ヘパリン、未分画ヘパリン、ビタミンK拮抗薬などは古いがよく使われる抗凝固薬である。新しい薬には心房細動と術後血栓症の予防(23, 24)のための第Ⅹ因子阻害薬(フォンダパリヌクス、リバーロキサバン、アピキサバン )や心房細動や静脈血栓症(25)のための直接的トロンビン阻害薬(ヒルジンとその由来薬、アルガトロバン、エラガトラン、アビガトラン)がある。低分子量ヘパリンやビタミンK拮抗薬を飲んでいる患者の広範な状況に我々のレビューをについて考えると、鍼灸よりもずっと侵襲的な外科的手法の安全性が厳密に実験されている。27360名の抗凝固薬を使用中の患者でのコクランメタアナリシスは股関節あるいは膝の置換術を受けた後4〜6週に1000名中123(12.3%)の出血が起こったことを見出した(26)
鍼灸を受けている抗凝固薬治療中の患者での手技に関連した出血は少ないであろうが、この疑問は決定的に研究された訳ではない。 なので我々は医学出版物の 特定可能なピアレビューを再考するためにこのメタアナリシスを行い、抗凝固薬治療中の患者での鍼灸の安全性を批判的に調べた。
資料と方法
我々は関連する引用論文を特定するためにPubMed、EMBASE、the Physiotherapy Evidence Database、Google Scholarを調べた。PubMedとEMBASEで調べた用語はサイドバーに並べてある。 PubMed 検索ワード(“anticoagulant”[MeSH Terms] OR “anticoagulant”[All Fields] OR “anticoagulants”[MeSH Terms] OR “anticoagulants”[All Fields] OR “anticoagulants” [Pharmacological Action]) OR (“warfarin”[MeSH Terms] OR “warfarin”[All Fields]) OR (“heparin”[MeSH Terms] OR “heparin”[All Fields]) OR (“clopidogrel”[Supplementary Concept] OR “clopidogrel”[All Fields]) OR (“enoxaparin”[MeSH Terms] OR “enoxaparin”[All Fields]) OR (“aspirin, dipyridamole drug combination”[Supplementary Concept] OR “aspirin, dipyridamole drug combination”[All Fields] OR “aggrenox”[All Fields]) AND (“acupuncture”[MeSH Terms] OR “acupuncture”[All Fields] OR “acupuncture therapy”[MeSH Terms] OR (“acupuncture”[All Fields] AND “therapy”[All Fields]) OR “acupuncture therapy”[All Fields]) EMBASE 検索ワード([anticoagulant OR anticoagulants OR warfarin OR coumadin OR heparin OR clopidogrel OR enoxaparin OR aggrenox] AND acupuncture) 我々は類似するワードでその他のデータベースを検索した。2人のレビュアーはあらゆる引用論文を検索し、引用論文の包含と除外を決めるのに不一致が持ち上がった時には3人目と協議した。除外基準は:抗凝固薬と鍼灸の両方について議論していない、データが数量化できないもの、抗凝固薬に使用が確かめられない、有害事象が報告されていない、だった。我々は関連のありそうな39の記事をオーダーして、全文コピーのレビューと除外基準 (Figure 1)に基づいて、鍼灸と1つかそれ以上の抗凝固薬の組み合わせについて報告している、という包含基準に合う11を特定した。データ抽出の後で我々はこれらの11の記事について協議をし、臨床的な評価と文献評価基準を組み合わせ、報告の質と抗凝固薬への被曝と鍼灸との出血に関わる因果関係の明らかな可能性によってグレード分けをした。明確なリスク層別化を促すため、これらの記事は結果(出血イベント)が共被曝(鍼灸、抗凝固薬使用中の患者)に因るものだという正確性の見込みをグループ分けした。我々は発表された原稿の質と、それぞれの治療法の考証の徹底ぶりと同様に、抗凝固薬の投与量と鍼灸との間のの経過時間に基づいた正確性の見込みを評価した。記事全文からのデータはそれから表形式に抜擢された(Table 1)(27–38)。
結果
システマチック検索我々のシステマチック検索は11の適切な引用論文(Figure 1)を得た。2つのランダム化トライアル(29, 33)、3つの後向きケースシリーズ(28, 34, 36)、5つのケースレポート(27,31,32,37,38)、1つの臨床記述(35)である。我々は比較対象の患者あるいは前後の比較を伴う複数の研究を見つけることができなかったため、数量的メタアナリシスは行われず、システマチックレビューとして結果を報告した(Table 1)。
抗凝固薬使用中の患者での鍼灸の安全性の評価を許す報告の質を伴う記事
我々は抗凝固薬と鍼灸治療の現時点において、観察された有害事象について適切な記述があり、明らかな文献を探した。我々は鍼灸の安全性が併用している抗凝固薬療法によって影響されたかどうかを評価するのに十分な報告の質を伴う7つの文献を見つけた (Table 1)(27–29,31–34)。鍼灸と薬剤の注射のどちらにもよく見られる小出血(圧迫と綿棒で単純に管理できる一滴の血液)が229名のケースシリーズでの350回の治療で51例(14.6%)に観察された(28 )。出血は臨床的に明らかではなく、薬剤の注射後によく行われるような圧迫で止まった。深鍼での1つの中程度の出血は抗凝固薬療法からリバースするために経口ビタミンK製剤で管理されていたワーファリン抗凝固療法の存在によって悪化するようである(27)。明らかな出血(鍼灸よりもむしろ積極的な抗凝固療法に関連したもの)が脳内出血が結果として報告されている発作後6時間までの急性虚血性脳梗塞の80名の治療での2つの異なる鍼灸の方法を比較したランダム化トライアルで報告されている。患者らはA)デクストラン/アスピリン+頭蓋鍼灸、B)デクストラン/アスピリン+ウロキナーゼ、C)デクストラン/アスピリン+プラセボの生食、の3群にランダムに振り分けられた。著者らは、デクストラン/アスピリン+頭蓋鍼灸群で1症例、デクストラン/アスピリン+ウロキナーゼ群で2症例、デクストラン/アスピリン+生食群で1症例の計4症例の脳内出血を報告している29, 30。
不適切な深鍼が明らかに原因である著しい出血(抗凝固療法を受けていない患者にさえ起こりそうな)が、(薬剤は不特定だが)抗凝固療法を受けている81歳の女性が鍼灸の翌日に手の伸筋腱のいくつかの断裂から出血し急性手根管症候群を起こして外科的に管理されたもの(31)、75歳の女性で長い鍼を繰り返し腸壁を貫く深さに刺した結果、虫垂の内膜に多数の小さな血腫(32)が2つのケースレポートで観察された。残る2つの高品質な報告は鍼灸による出血を報告していない。アスピリン/低分子量ヘパリン抗凝固療法あるいは鍼灸と抗凝固療法の組み合わせのどちらかにランダムに振り分けられた70名の患者でのトライアルでは小さな有害事象は報告に含まれていないものの、重篤な有害事象は報告されていなかった(33)。痛みの緩和のために鍼灸を受けるため個人の開業医に現れた4名の女性の結果の後ろ向きチャートレビューで、4名の患者は根底にある症状のためにワーファリンを受けていた。累積で4名の女性は51回の電気を使わず、局所と遠位を使った鍼灸治療を受けた。1名の患者で上背部への鍼灸で無症状の字が存在していたことがあったが、治療後に出血や出血に関連した問題を起こした患者はいなかったことが鍼灸の資格を持つ医師によって確認されている(34)。After treatment, none of the patients demonstrated any bleeding or bleeding-related problems, either as observed by the physician-acupuncturist or through self-report, except for an occasional asymptomatic bruised area at an acupuncture site on the upper back on one patient.34
抗凝固療法中の患者での鍼灸の安全性を評価したり、結論を導くにはレポートの質が不十分な記事
Dana Farberがんセンター (Boston, MA)で行われた臨床レビューでは、著者らは6000名以上のがん患者の治療の経験から、鍼灸が抗凝固薬を投与されているがん患者で(比率は特定されていないが)出血の機会が増加することはないと報告している(35)。トロント脊髄損傷リハビリテーション病院の鍼灸ができる医師による数百名の患者のケースシリーズでは、 抗凝固療法中の患者での鍼灸による出血事故は一件もなかったという11年間の彼女の個人的な経験を報告している。しかしこれはジャーナル編集者への手紙であり、正式な後向き症例記録のレビューというよりは記憶によって書かれたものであった(36)。さらに2つのケースレポートは時間的な前後関係は特定していないが、鍼灸治療の患者に抗凝固薬を投与したことによる血腫(38)とコンパートメント出血(37)を記している 。これらの4つの記事はレポートの質が乏しいため、結論を導いたり、レビューのセットから取り下げることはできない。(?)Because of the poor quality of reporting in these 4 articles, we were unable to draw conclusions and withdrew them from the review set.
議論
我々は11の記事のうち7つで「抗凝固薬を使用中の患者に鍼灸をすると果たして出血リスクが高くなるのか?」という研究の疑問を批判的に評価するのに十分な質のレポートを提供しているシステマチック検索を特定した。7つの記事で議論されている鍼灸治療を受けている抗凝固療法中の患者では、384名の鍼灸の患者で3974回の治療のうち出血イベントは58、出血発症率は1.4%だった。これは股関節や膝の置換術を行った低分子量ヘパリンやビタミンKで抗凝固されている患者らの出血発症率12.4%と比べると大変好ましい数字である。特筆すべきことは1.4%という鍼灸の出血発症率は限定的な除外基準なしの多様なグループの229230名の患者での大規模前向き観察研究に記載されている6%よりも低いということである(39) Remarkably, the 1.4% acupuncture bleeding complication rate is lower than the 6% rate documented in a large prospective observational study of 229,230 patients, a diverse group without restrictive exclusion criteria.39
我々の研究では鍼灸の出血イベントの大部分は無症状性のあざ(34)あるいは針を刺す手技によくある圧迫や綿花(28)で管理できるような血液滴であることがわかった。我々の評価によれば深刻な出血イベントは(2名に起きた」不適切な深鍼によるものと(31, 32)抗凝固薬のミックスによるものだった(29)。Liらによるランダム化トライアル(29)では、 頭蓋内出血が観察されたのは、デクストラン/アスピリン+頭蓋鍼灸で1症例、デクストラン/アスピリン+ウロキナーゼで2症例、デクストラン/アスピリン+生食プラセボで1症例であつた。これらの観察は鍼灸と抗凝固薬の組み合わせが血腫の原因となるというよりは、抗凝固薬のミックスがより大きな問題であることを示している。残る2つの質のよい報告は鍼灸による出血を記述していなかった。アスピリン/低分子量ヘパリン抗凝固単体あるいは鍼灸と抗凝固薬とにランダムに振り分けられた70名のトライアルで、著者らはひどい副作用はなかったと報告している(しかし小さな有害事象はデータに含めていない)(33)。2つめは痛みの緩和のために鍼灸をした4名の女性の結果(計51回の鍼灸治療)を後ろ向きチヤートレビューだった。1名の患者で鍼灸をした上背部に無症状のあざができていただけだった(34, 36)。
我々が特定した残り4つの症例において出血イベントと鍼灸+抗凝固薬との関係が確定できなかった。2つのケースレポートは鍼灸の後に発症した下腿のコンパートメント症候群を記しているが、鍼灸と抗凝固の期間が明示されていないため、我々は原因は評価できないと決定した(37,38)。不幸なことに、抗凝固薬を投与されている患者での鍼灸の安全性の疑問に包括的に述べるというポジションの最後の出版物である6000名の後向き臨床レビューは詳細な報告が不足しており、原因の評価が不可能だった(35)。Unfortunately the final publication, a 6000-patient retrospective practice review, which could have been well positioned to comprehensively address the question of the safety of acupuncture in patients receiving anticoagulants, was lacking in reporting depth and assessment of causation was not possible.35
結論
384名の患者のうち56名(3974回の治療;1.4%)が小出血を経験しており、ただ1名のみ(0.02%)が抗凝固療法と鍼灸の組み合わせに関連したひどい出血を経験していて、このエビデンスは抗凝固療法を受けている患者において鍼灸はかなり安全性が高いと示している我々のシステマチックレビューの中で特定され、また評価されている。その患者の鍼灸師が腱や内臓を損傷した場合にのみ明らかな出血が起こるという事実は適切な刺入部位と刺入深度の重要性を強調している。 我々が特定したあるランダム化トライアル(33)に類似しているが、抗凝固療法中の患者での鍼灸に続く小規模あるいは大規模な出血をどちらもモニターしている前向きランダム化トライアルは我々のシステマチックレビューの初見を確かめのに役立つだろう。
我々のシステマチックレビューは我々が観察した出血の発症率とWittら(39)との間の大きな違いを強調している。その記事と我々の施設での好ましい安全性の観察との違いをさらに明らかにするため、我々は後向きでこのレビューのフォローアップをし、その後抗凝固療法中の患者での鍼灸の安全性に関する独自の患者記録の前向き分析をするという計画している。
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