ニューヨークタイムズとAPの記事
朝霧高原治療院の田中です。
アメリカでの慢性疼痛管理における鍼灸についてニューヨークタイムズとAPが紹介していた内容を日本語に訳しました。
海軍の退役軍人であるジェフ・ハリスはプロビデンスVA病院が慢性痛のための鍼灸の提供を開始した時、最初に登録を申し込んだ。
「私は痛み止めの薬を飲むのが好きではありません。あの感じがいやなのです。」と彼は言った。
ハリスは処方される強力な痛み止めに依存することも望まなかった。
長い間ニセ医学と批判され、依然として多くの医学の専門家から疑問を呈されているが、時に国のオピオイド危機の背後にある強力な鎮痛剤に代わるものとして、鍼灸は患者や医師らによってますます受け入れられている。
退役軍人委員会医療システムはこの数年間、鍼灸を痛みに対して提供しており、鍼灸をカバーする保険会社もあり、今日ではオピオイドの過剰投与により打撃を受けた州のメディケイドプログラムが低所得層の患者らに鍼灸を提供する例も増加して来ている。
オピオイド特別委員会が州職員に痛みの代替療法について調査するよう説得すると、オハイオ州のメディケイドプログラムは最近鍼灸の適用範囲を拡大した。
「我々は実に深刻な問題を抱えている」とオハイオ州メディケイド課のマリー・アップルゲイト医師は言った。「もし鍼灸が本当に効くことが証明されたなら、その利用を妨げるような障壁は取り払うべきだ」
オピオイドとの戦いの中で医師や州の保険者は鍼灸に注意を向け始めている。しかしそれがどの程度効くのかという論点が指摘されている。(Feb. 20)
この流行は強力な鎮痛薬処方の爆発的増加よって引き起こされたが、近年のオピオイド過剰投与による死の多くはヘロインや違法フェンタニルに起因している。オピオイド中毒は痛みを訴える患者への援助から始まることが多いが、鍼灸は最初の時点で患者らがオピオイドを服用しなくても済むようにする方法としてますます注目されている。
アメリカでは長い間、鍼灸は専門的な知識に欠け、実証されていないものと考えられており「インチキ鍼」と呼ぶ懐疑的な人もいた。今ではさまざまな痛みに対する鍼について多くの研究が行われているが、研究の質は玉石混交である。連邦の査読者らは鍼灸が痛みの管理に役立ち、患者の助けになる場合があるというエビデンスはあるが、その効果は控えめであり、さらなる研究が必要だと述べている。
医師の中では治療が効いているという信念、いわゆるプラセボ効果が有効性にどの程度寄与しているのかが活発に議論されている。「多かれ少なかれプラセボ効果はあるのでしょう。それでも治療をしない場合と比べるとかなり効果があるのです。」とケースウェスタンリバース大学のアンキット・マヘシャワリ医師が言った。肩こり、偏頭痛、その他の痛みにも効く場合があるそうだ。
鍼灸に両手を上げて賛同する医師は少ないものの、患者らが試す分にはいいのではないかと考える医師は多い、とエール大学の神経科医で代替医療をバッシングするウェブサイトのエディターであるスティーブン・ノベラ医師は言う。彼は鍼灸を「患者だまし劇場」だと考えている。鍼灸師とその支持者らは「オピオイド危機を鍼灸の普及に不当に利用しようとしている」「効かない治療を奨励しても危機は解決しない」と述べている。
鍼灸はチャイナで数千年前から行われており、耳を含む身体のさまざまな部分に細い金属の鍼を刺入する。治療家は正しいツボに鍼をすれば身体中を巡る神秘的なエネルギーである「気」の流れを健康な状態に戻し、自然治癒を促し痛みを和らげられると言う。
政府の調査によれば67人に1人のアメリカ人の成人が毎年鍼灸を受けており、これは10年前の91人に1人よりも増加している。2012年の時点ではこのうち保険で治療費がカバーされていたのは全体の25%で、大多数は自費で支払いをしているのにもかかわらずこの成長は起こった。最大の連邦保険プログラムであるメディケアは鍼灸に保険を認めていない。軍人と家族のための医療保険であるトライケアでも支払いを認めていない。しかし退役軍人施設では鍼灸を自己負担なしで提供している。
ジェフ・ハリスは2年前に鍼灸の登録を申し込んだ。50才の海軍退役軍人は80年代に軍の訓練中、懸垂下降や落下訓練中に背中を痛めたと言う。現在彼は下肢の痛みと足部の無感覚がある。マサチューセッツ州フォックスボロで鍼灸は私の神経を落ち着かせてくれた、とハリスは言った。
他の退役軍人であるコネチカット州ダニエルソンの46才のハリー・ガルシアは長年強力な痛み止めを必要とした腰痛に鍼灸を試した。鍼灸は短期間に「消しゴムのようにすべてを取り去ってくれ」10日間は痛みを軽減してくれた、とガルシアは言った。
約10年前、軍と退役軍人委員会は、鍼灸、ヨガ、カイロプラクティックケアなどの疼痛治療に対する代替アプローチを広げ始めた。
2009年に元陸軍外科医だったエリック・シューメーカー医師はオピオイド中心だった陸軍の痛みへのアプローチを再評価するプロジェクトチームを認可した。関心が向けられることは理解ができる-「鍼灸に足を吹っ飛ばされて泣き叫ぶ者はいない」と現在メリーランド州ベテスダにある軍医学校軍人保健科学大学の教授を務めるシューメーカーは言った。
しかし、鍼灸や他のアプローチが兵士や船員にも開放されており、海外では慢性的な痛みのための非薬物アプローチを試みたと付け加えた。シューメイカーはヨガのインストラクターである彼の妻から代替的なアプローチについて真剣に考えるよう鼓舞された、と語った。
最近の研究によれば今では軍病院と治療センターの2/3が鍼灸を提供している。
連邦政府の科学研究機関である補完統合保健医療センターのエムメリン・エドワーズ氏は、軍の選択肢の開放は「必要性が非常に大きいため」と述べている。 "おそらく、そのアプローチのいくつかは、強力なエビデンスの基盤なしに利用されているのかもしれない。彼らはアプローチを試して、それがうまくいくかどうかを見ているのだろう、と話した。彼女の機関はペンタゴンと退役軍人委員会とを結びつけ、慢性疼痛を治療するためのさまざまな非薬物療法の有効性を研究するための研究プロジェクトに8100万ドルを費やしている。まだ研究は途中だが、鍼灸の保険適応は拡大している。カリフォルニア州、マサチューセッツ州、オレゴン州、ロードアイランド州はメディケイド保健プログラムで痛みに対する鍼灸の利用に支払いを認めている。
科学者らは薬物依存による渇望をどれほど減らせるのか疑問視しているが、マサチューセッツ州とオレゴン州は依存症治療にも鍼灸の保険適応を認めている。
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