手掌多汗症と鍼灸
富士市の筋膜鍼 朝霧高原治療院の田中です。
数年前からフェイスブックで「鍼灸の論文を読む」というグループをやつてまして、書き込みは少ないのですがいつのまにか400名近い鍼灸師の方が登録しています。
今朝久しぶりに、というか珍しく「手に汗をかいて困るという患者さんがいます。論文を探したのですが見つけられなくています。いい治療法を知ってる先生いませんか?」という投稿がありました。
私は専ら慢性の痛みの治療ばかりしているので、手に汗が出て困るなんていう場合に鍼しようなんて考えもしなかったのですが、書き込みがうれしくて調べてみました。
すると東トルコのアルズロムの先生方が書かれた症例報告が見つかりました。同じ経穴を使って鍼をしたところ3症例とも発汗が減少したとの報告です。
まず手掌多汗症についてですが必要以上に汗が出てしまいQOLを障害する原因のはっきりしない病気であって25才以降に発症することが多く、腋窩、手掌、足底に出るのが一般的、有病率には性差がなく人口の3%に起こる病気と書かれています。けっこう多い病気ですね。
東京医科歯科大学の皮膚科の先生は外用剤とイオン浸透療法で8割くらいの患者さんは改善するから皮膚科を受診するよう勧めています。
一方で金沢医科大学の血管外科の先生は↑の保存療法はほとんど無効とし、胸部交感神経の遮断術を勧めています。
トルコの内分泌科の先生たちは鍼灸には副作用もないし改善する人もいるようなので、ということで鍼を勧めたようです。3症例とも血液検査、甲状腺機能には異常がなく、インフォームドコンセントを行なった上で鍼灸をしたそうです。
3例とも中医学的診断はせず、25ミリの5番ステンレス鍼を両側の合谷、曲池、天府、三陰交、太谿、復溜、太衝、太陽、大椎、百会、印堂、耳の神門、肺点に0.5〜1寸の深さで鍼をし、ひびきは生じさせず、電気鍼もお灸もしない30分の治療をしたそう。
症例1では週3回で12回行い、治療が終わってひと月経っても症状は改善したままだったそう。この人は女性でBMI31.2の肥満。
症例2は25才のアスリートの女性で週2回の症例1と同じ治療を3ヶ月にわたって計25回行ったところ8回の治療が終わった1ヶ月の時点で発汗の減少を感じたそうです。
症例3は48才の男性で1日に4〜5回もシャツを変えるほどの多汗症。週3回の鍼を20回受け、5回めで発汗の減少を感じ、20回の時点では夜中に汗で濡れたパジャマを着替える必要がなくなり睡眠の質が改善したそうです。
従来治療と鍼灸での改善率を比較して、従来治療では57.7%だったのに対して鍼灸では96.7%だったという報告もあるようです。
Wang WZ, Zhao LJ. Acupuncture treatment for spontaneous polyhidrosis. Tradit Chin Med 2008;28:262–3.
関心がなく勉強したことのない病気だったのでこの先生の質問のおかげで勉強になりました。
アルズロムは25年前にドイツからネパールまで陸路で旅行した際にイランのビザをなんとか取る必要があってたまたま立ち寄った経験のある場所だったので感慨深いものがありました。
ひびかせなくても効いたならひびかせるとどんな結果になるんでしょうか?機会があったら試してみたいです。
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