耳鳴りに対する鍼
朝霧高原治療院の田中です。昨日は用事があって焼津に行きましたが、今日は朝からずっと耳鳴りに対する鍼の論文を読んで内容をまとめていました。
もし誰かに鍼留学させてあげるけど、チャイナとイランどちらがいい?と聞かれたら自分なら迷わずイラン!と答えるほど、イランでは鍼がしっかり行われています。で、今回の論文は去年イランのギラン大学から報告されたものです。16ページ!
読んでよかった。こういう成功例があるなら多くの耳鳴りの患者さんに試してみたいと思いました。
以下まとめです。
非拍動性耳鳴りに対する鍼: 無作為化比較臨床試験
Bahrain Naderinabiら, 2018
耳鳴りは「人生で3人に1人が経験する」と言われるほど頻度の高い症状だが、アメリカでは1200万人、イランでは520万人が耳鳴りに悩まされており、そのうちの6.4%の重症者ではイライラがひどく、生活の質は著しく低下してしまう。黒人より白人に多く、女性より男性に多く、歳を重ねるに従って増加する。
難聴に伴って生じるケースが多いが正常な聴力の人にも生じ、聴神経腫瘍(良性で正しくは前庭神経鞘腫という)などの構造障害やメニエール病、多発性硬化症でも生じる場合がある。
今の時点で耳鳴りに有効な治療法はなく、また耳鳴りに対する鍼の効果を検討した研究はわずかである。
これまでの研究には生活の質が改善する、とかストレスが軽減した、とか、睡眠が改善した、といったポジティブな結果のものと、耳鳴りそのものの改善には統計学的な有意差はない、といったネガティブな結果のものがある。
耳鳴りには拍動性耳鳴りと非拍動性耳鳴りがあるが、拍動性耳鳴りは耳周囲の動脈硬化や動脈の蛇行による血行動態の異常が原因で生じるので、鍼での介入は適切ではない。
そこで2014年12月〜2015年9月まで非拍動性耳鳴りの患者80人を鍼群、プラセボ群とに分け、二重盲検比較対照試験を行った。
鍼群は男性26人、女性18人の計44人、プラセボ群は男性27人、女性17人の計44人。耳鳴りの大きさの平均は自覚症状で10のうち約9だった。
鍼群で使用された経穴はGB2、GB20、TE 21、TE 19、TE 17、TE3、TE5、LI 4、SI6で、プラセボ群はそれらのツボから外れた場所に鍼を刺さない形を取った。鍼は週3回、計15回行い、5回め(T1)、10回め(T2)、15回め(T3)、治療後3週時(T4)に耳鳴り重症度質問票(TSI)と耳鳴りの大きさの自覚症状を1〜10で表現すること(VAS)で評価を行った。
スタート時にプラセボ群の男性2名、女性1名が離脱、10回めの時点でプラセボ群の1名、15回めの時点でプラセボ群の4名が離脱、終了後3週時には鍼群の9名、プラセボ群の3名が離脱した。これらの離脱は参加者のコンプライアンス不良による。
耳鳴りのひどさはTSIで評価された。T1→T2→T3→T4の変化は鍼群では37.21→34.02→24.82→23.11、プラセボ群では41.4→34.29→33.16→33.13。
意外なことにT1(5回め)ではプラセボ群の方がわずかながら改善を示し、T2(10回め)では有意差なし。それ以降は一貫して鍼群で減少していき、鍼群は終了後にも効果が持続した。
耳鳴りの大きさは10段階のスケールで評価されたが、鍼群では7.58→5.36→2.88→2.25、プラセボ群では9.18→8.16→7.86→7.81。鍼が効くようである。
まとめ:現在のところ有効な治療法のない耳鳴りに対して鍼は耳鳴りのひどさ、大きさともに改善させた。鍼は耳鳴りの有効な治療法の候補である。
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