うつに対する鍼灸のシステマチックレビュー
一昨日NHK、東洋医学のチカラという番組でイギリスでうつに対する鍼灸が積極的に行われている、という内容が放映されていました。再放送だろうと思うんですけども。
これ↓
テレビに出ていたあの方はヒュー・マクファーソンというヨーク大学の先生で以前からうつに対する鍼灸をテーマに長く臨床研究を続けています。
2013年にイギリス北部の複数のクリニックに通院しているうつの患者さん755名を、SSRIなどの通常治療、SSRIプラスカウンセリング、SSRIプラス鍼灸の3グループに分け、効果を比較し、SSRI単独よりもカウンセリングや鍼灸を組み合わせた方が半年後の症状が改善する、といった結果が報告されました。
これです↓
うつに対する鍼灸の研究はその当時あまり見たことがなかったし、研究参加人数がとても多かったのが印象的でした。
その後、鍼がうつに対して一定の効果を期待できるんじゃないか、ということがこの5〜6年言われてきているので、とても興味を持っていて、このところうつ関連の文献を調べています。
うつは脳の感情処理に関与する前脳辺縁系というところにプロセス異常があることが知られてきているようです。
また炎症変化と強い関連があり、うつの状態だと末梢の炎症マーカー値が高くなり、また炎症を強化させるとうつが生じたりするそうで、実際、炎症性疾患や自己免疫疾患のある人はうつを経験することが多いそうです。
情報伝達のプロセス異常や炎症の回復に鍼が効くかもしれないことはこれまでの基礎研究でだんだん分かってきているので、これらがうつの要素であるならば、鍼が効いてもおかしくはないわけです。度々書くようですが鍼灸師としてはとても興味をそそられます。
そんなことを思いながら新しいシステマチックレビューがないかな〜、なんて検索をしてみたらなんと去年出てました。
うつな対する鍼灸のシステマチックレビューマイク・アーマーら、2019年7月31日。
これです↓
著者にはイギリスのマクファーソン先生も含まれていて、あと、オーストラリアのキャロリン・スミス先生とか。そんなミーハーなことを言ってちゃあダメだとは思うんですけどこれまで積極的に研究してきたこういった研究者の名前が入っているというだけで文献の信頼性が増す気がします。
この文献を読んでまずアメリカでの生涯有病率が20.6%という数字が印象的でした。5人に1人。思ったよりもけっこう多い病気です。
大うつ病では視床下部-下垂体-副腎軸の変化、ストレスホルモン間の機能障害、ノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミンなどの神経伝達物質の不均衡が発症および症状の維持の要素である可能性が示唆されていて、
評価にはハミルトン評価尺度(HAMD)、ベックうつ病インベントリー(BDI)、患者健康質問票-9(PHQ-9)が使用され、
治療としては抗うつ薬処方、認知行動療法、対人療法、心理療法、カウンセリングが行われているそうですが、抗うつ薬を飲むのをやめたくなってしまったり治療があまりうまくいかないケースが多いそうです。
この文献は1980〜2018年11月までの大うつ病に対する鍼灸の臨床試験、29研究をメタ解析したもので、患者2268人分のデータが含まれています。
その結果大うつ病の治療に鍼灸を加えるとSSRIなどの通常治療だけの場合と比べて重症度が有意に低下することが示されたそうです。ただ、29研究のうちチャイナで行われた22研究はバイアスリスクが高く、実際よりも効果が高く見積もられている可能性があるようです。
他の国での施術頻度の平均が週1回であるのに対し、チャイナでは2日毎に行われているそうで、鍼灸の「容量」に違いがあります。
鍼灸の「容量」には使用される鍼の本数、保持時間、鍼に加えられる刺激といった神経生理学的容量と、周波数、施術の合計数などの累積容量が含まれます。
うつに対しては電気鍼よりもマニュアル鍼の方が効く可能性があると書かれていました。
またこれはこの文献に書いてあるわけではないのでうつに対して適応できるか分かりませんが、痛みに対する治療では痛みに敏感なが人に対しては「容量」は少ない方がいい効果が得られやすいことが知られています。
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